本稿では、近年急速に普及している大規模言語モデル(LLM)の利用において、利用者の過度な依存を抑制するために、行動科学の知見に基づいた「摩擦」を導入する手法を提案している。
LLMは高度な言語処理能力を持つが、その出力は常に正確であるとは限らず、短期的には誤った情報の拡散、長期的には人間の批判的思考能力の低下といったリスクも孕んでいる。LLMの適切な利用を促進するため、本研究ではLLMへのアクセスに「摩擦」を設けることで、利用者の行動を調整することを試みる。
「摩擦」とは、LLMの出力にアクセスする際に、時間、労力、認知負荷を意図的に増加させることで、利用者にタスクに対する意識的な検討を促す設計要素である。本研究では、LLMによる支援の提供を遅らせる、あるいはLLMの出力にアクセスする前に追加のクリックを要求するといった方法で摩擦を導入する。
多肢選択式の質問応答タスクを用いたユーザー調査を実施し、摩擦の導入がLLMの利用行動に与える影響を検証した。結果は、摩擦の導入により、LLMの出力にアクセスするクリック率が有意に減少することが確認された。これは、摩擦がLLMへの過度な依存を抑制する効果を示唆している。一方、摩擦の導入は、意図しない「波及効果」も引き起こす可能性が示唆された。例えば、特定のトピックにおいて摩擦を導入した場合、摩擦が導入されていない他のトピックにおいてもLLMの利用が減少するといった現象が観察された。
本研究は、LLMの利用体験における「摩擦」の設計と導入に関するケーススタディであり、適切に設計された摩擦が、ユーザーの自由を大きく制限することなく、LLMへの過度な依存を抑制する有効な手段となりうることを示した。しかし、摩擦の導入は意図しない波及効果をもたらす可能性もあり、今後の研究では、より効果的で倫理的な摩擦の設計を探求する必要がある。
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