Belle II実験における B → K*(892)γ 崩壊の測定
Concepts de base
Belle II実験のデータを用いて、B中間子の崩壊過程B → K*(892)γの分岐比とCP非対称性を測定し、標準模型の検証と新物理探索の可能性を示唆する。
Traduire la source
Vers une autre langue
Générer une carte mentale
à partir du contenu source
\boldmath Measurement of {\boldmath $B \to K{}^{*}(892)\gamma$} decays at Belle~II
本論文は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のSuperKEKB加速器で行われたBelle II実験のデータを用い、B中間子の崩壊過程B → K*(892)γの分岐比とCP非対称性を測定した研究論文である。
研究目的
この研究の目的は、B中間子の稀崩壊過程であるB → K*(892)γを高精度で測定し、標準模型(SM)の予言と比較することである。特に、分岐比とCP非対称性の測定は、SMを超える新物理の兆候を探す上で重要な手がかりとなる。
実験方法
Belle II実験は、電子と陽電子の衝突実験によって大量のB中間子対を生成し、その崩壊過程を詳細に調べる実験である。本研究では、2019年から2022年にかけて収集された、365 fb-1のデータサンプルを用いた。
B → K*(892)γ崩壊の信号事象は、K*(892)中間子の崩壊様式(K+π-, K0Sπ0, K+π0, K0Sπ+)に応じて再構成され、質量とエネルギーに関する変数を用いた二つの次元を持つ最尤法によるフィッティングによって、事象の選別と信号収量の決定が行われた。
結果
B0 → K*0γとB+ → K*+γの分岐比は、それぞれ(4.14 ± 0.10 ± 0.11) × 10-5、(4.02 ± 0.13 ± 0.13) × 10-5と測定された。
B0 → K*0γとB+ → K*+γのCP非対称性は、それぞれ(-3.3 ± 2.3 ± 0.4)%、(-0.7 ± 2.9 ± 0.6)%と測定された。
中性と荷電チャネル間のCP非対称性の差(ΔACP)は、(+2.6 ± 3.8 ± 0.7)%と測定された。
アイソスピン非対称性(Δ0+)は、(+5.0 ± 2.0 ± 1.5)%と測定された。
結論
測定された分岐比、CP非対称性、ΔACPは、過去の測定結果や理論的な予言と一致している。アイソスピン非対称性Δ0+は、標準模型の予言(3%~8%)と一致するものの、誤差の範囲内で負の値を取る可能性も残されている。
今後の展望
今後、Belle II実験ではより多くのデータが蓄積される予定であり、本研究で示された測定精度はさらに向上すると期待される。
Stats
Belle II 実験で収集されたデータ量は、オン共鳴データが (365.3 ± 1.7) fb-1、オフ共鳴データが (42.7 ± 0.2) fb-1 である。
B中間子の崩壊過程 B → K*(892)γ における K*(892) 中間子の崩壊様式は、 K+π-, K0Sπ0, K+π0, K0Sπ+ の4種類である。
信号事象の選別には、質量 (Mbc) とエネルギー差 (ΔE) に関する変数を用いた二つの次元を持つ最尤法によるフィッティングが用いられた。
測定された B0 → K*0γ の分岐比は (4.14 ± 0.10 ± 0.11) × 10-5 であり、 B+ → K*+γ の分岐比は (4.02 ± 0.13 ± 0.13) × 10-5 である。
アイソスピン非対称性 (Δ0+) は (+5.0 ± 2.0 ± 1.5)% と測定された。
Questions plus approfondies
Belle II実験のデータ量増加によって、今後どのような新物理の兆候が得られると期待されるか?
Belle II実験では、データ量の増加に伴い、様々な物理量測定の統計精度が向上することで、標準模型を超える物理(新物理)の兆候を捉えることが期待されます。本研究で扱われている B → K*(892)γ 崩壊では、以下の点が挙げられます。
分岐比の精密測定による新物理探索: 標準模型では抑制されているため、新粒子の寄与が分岐比に影響を与える可能性があります。Belle II実験のデータ量の増加により、分岐比の測定精度が向上し、標準模型からのずれを高感度で探索できます。
CP非対称度の精密測定による新物理探索: 新粒子は、CP非対称度にも影響を与える可能性があります。Belle II実験では、CP非対称度の測定精度を向上させることで、標準模型では説明できないCP対称性の破れの兆候を捉え、新物理の発見につなげることが期待されます。
アイソスピン非対称度の精密測定による新物理探索: アイソスピン非対称度は、標準模型では小さな正の値と予想されていますが、新物理モデルによっては負の値になる可能性も指摘されています。Belle II実験では、アイソスピン非対称度の測定精度を向上させることで、新物理モデルの検証が可能になります。
これらの測定に加えて、Belle II実験では、B中間子の稀崩壊、タウレプトンの崩壊、チャームハドロンの崩壊など、様々な物理過程を研究することで、多角的に新物理の探索を進めています。データ量の増加は、これらの探索においても重要な役割を果たすと期待されます。
B中間子の崩壊過程におけるアイソスピン非対称性の測定は、他のハドロン崩壊の研究にも応用可能か?
はい、B中間子の崩壊過程におけるアイソスピン非対称性の測定手法は、他のハドロン崩壊の研究にも応用可能です。
アイソスピン対称性は、強い相互作用において重要な概念であり、アイソスピン非対称性の測定は、ハドロンの内部構造やクォーク・グルーオンの相互作用を理解する上で重要な手がかりとなります。
B中間子崩壊におけるアイソスピン非対称性の測定で培われた、実験データと理論計算を比較し、標準模型からのずれを高感度で探索する手法は、他のハドロン崩壊、例えば、D中間子やΛバリオンなどの崩壊過程にも応用できます。
具体的には、崩壊率のアイソスピン非対称度や、崩壊に関与するハドロンの質量分布のアイソスピン非対称度などを測定することで、ハドロンの内部構造やクォーク・グルーオンの相互作用に関する知見を得ることが期待されます。
素粒子物理学における標準模型を超える理論は、今回の実験結果をどのように説明するか?
今回のBelle II実験の結果は、現状では標準模型と矛盾していません。しかし、標準模型を超える理論(Beyond Standard Model, BSM)は、今回の実験結果を説明するために、標準模型に存在しない新しい粒子や相互作用を導入する必要があります。
例えば、超対称性理論や余剰次元理論などのBSM理論では、標準模型の粒子に対して、それぞれパートナーとなる粒子や、高次元の空間に存在する粒子などが存在すると考えられています。これらの新しい粒子が、B中間子の崩壊過程に寄与することで、標準模型の予想値からのずれが生じる可能性があります。
具体的には、BSM理論における新しい粒子が、B中間子の崩壊に関わるループダイアグラムに寄与することで、分岐比やCP非対称度、アイソスピン非対称度などの物理量に影響を与える可能性があります。
今回のBelle II実験の結果は、BSM理論の構築や検証に重要な制限を与えるとともに、今後のより精密な測定によって、BSM理論の兆候を捉えられる可能性を示唆しています。