本稿は、2024年8月にコペンハーゲンで開催された「ブラックホール:内と外」会議で行われた講演内容をまとめたものです。著者は、古典一般相対性理論、特にアインシュタイン真空方程式における極限ブラックホール近傍の一般的なダイナミクスについて、最近の進展を踏まえて自身の見解を述べています。
従来、極限ブラックホールの研究は、「第三法則パラダイム」と「過剰回転/過剰チャージパラダイム」という2つのパラダイムに大きく影響されてきました。
第三法則パラダイムは、ブラックホールの表面重力を有限の時間ステップでゼロに減らすことは不可能であるという、バーディーン、カーター、およびホーキングの論文[3]に端を発する考え方です。しかし、ケールとアンガーの近年の研究[10]は、アインシュタイン・マクスウェル荷電スカラー場システムにおいて、初期状態が準極限であるブラックホールが重力崩壊を経て、有限時間内に極限状態になることを示しました。これは、第三法則パラダイムと矛盾する結果です。
過剰回転/過剰チャージパラダイムは、極限ブラックホールが過剰回転または過剰チャージによって、超極限カー解や超極限ライスナー・ノルドシュトロム解のような裸の特異点を形成するという考え方です。しかし、このパラダイムを支持する明確な証拠はなく、むしろ最近の研究結果からは、極限ブラックホールが安定である可能性も示唆されています。
著者は、これらのパラダイムを再考し、極限ブラックホールのダイナミクスに関する新たな予想を提示しています。これらの予想は、最近の定理から合理的に推測されるものであり、今後の研究の指針となるものです。
古典一般相対性理論における極限ブラックホールのダイナミクスは、未だ解明されていない問題が多く残されています。従来のパラダイムにとらわれず、新たな視点からの研究が求められています。
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