本研究は、GluK1カイネート受容体のアミノ末端ドメインにあるスプライス挿入の機能的意義を明らかにすることを目的としている。
まず、ヒト脳におけるGRIK1遺伝子のエクソン9の発現パターンを解析し、この挿入配列が発達期の特定の脳領域で高発現していることを示した。
次に、スプライス挿入を含むGluK1-1a受容体とスプライス挿入のないGluK1-2a受容体の機能的特性を電気生理学的に比較した。その結果、GluK1-1aは、GluK1-2aに比べて脱感作が遅く、グルタミン酸に対する感受性が低く、電位依存性ブロックが増強されていることが明らかになった。
さらに、GluK1受容体の補助タンパク質であるNeto1とNeto2の調節作用についても検討した。その結果、Neto1はGluK1-1aの脱感作を促進し、回復を加速するのに対し、Neto2はGluK1-1aの脱感作を著しく遅延させることが分かった。一方、GluK1-2aに対するNeto1とNeto2の調節作用は異なっていた。
スプライス挿入部位のアミノ酸変異体の解析から、K368、K375、H376、K379、K382の5つの塩基性アミノ酸残基がGluK1-1aの機能的特性や Netoタンパク質による調節に重要であることが示された。
最後に、GluK1-1aの単粒子cryo-EMによる構造解析を行ったが、スプライス挿入部位の密度は明瞭ではなく、スプライス挿入がレセプター構造に大きな影響を与えていないことが示唆された。
以上の結果から、GluK1受容体のアミノ末端ドメインのスプライス挿入は、受容体の機能的特性を大きく変化させ、Netoタンパク質による調節にも影響を及ぼすことが明らかになった。この知見は、カイネート受容体の多様な機能発現機構の理解に重要な示唆を与えるものである。
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