核心概念
本研究では、学習者の状態分布を考慮した専門家の状態拡張手法を提案することで、従来の模倣学習ベースのシミュレーターが抱える共変量シフトの問題を解決し、長期的な安定した微視的交通シミュレーションを実現する。
要約
本研究は、交通工学における重要な課題である微視的交通シミュレーションの実現に取り組んでいる。従来の交通シミュレーターは、ヒューリスティックなモデルに基づいているため、複雑な実世界の交通環境を正確にシミュレーションできないという課題があった。近年、模倣学習を用いた手法が提案されているが、学習者の状態分布と専門家の状態分布のずれ(共変量シフト)により、長期的なシミュレーションが困難であった。
本研究では、変分オートエンコーダを用いて専門家と学習者の状態分布を同時にモデル化し、学習者に適応した専門家の状態を生成する手法を提案している。これにより、専門家の未来軌跡を目標とすることで、学習者を専門家の状態分布内に留めることができる。さらに、コンテキスト条件付きのVAEを用いることで、コンテキスト分布のモデル化を容易にしている。
提案手法を実世界の大規模な交通データセットpNEUMAを用いて評価した結果、短期的な微視的指標と長期的な巨視的指標の両方において、従来手法を大きく上回る性能を示した。特に、10分以上の長期シミュレーションを安定して生成できることが特筆される。
統計
提案手法は、従来手法と比べて、20秒間のシミュレーションにおける位置RMSE、速度RMSEを大幅に改善した。
提案手法は、800秒間のシミュレーションにおける道路密度RMSE、道路速度RMSEを大幅に改善した。
提案手法は、長期シミュレーションにおける逸脱率を大幅に低減した。