核心概念
過去のハッブル定数の測定値のばらつきは、公表された誤差範囲よりもはるかに大きく、統計誤差が過小評価されてきたことを示唆しており、現在のハッブルテンションも同様の問題を抱えている可能性があり、過剰に注目すべきではない。
本論文は、1976年から2019年にかけて測定された163個のハッブル定数 (H0) の値の統計分析を行い、その結果、測定値のばらつきが公表された誤差範囲よりもはるかに大きいことを示した。これは、過去のH0測定において統計誤差が体系的に過小評価されてきたことを示唆している。
過去の測定値の分析
論文では、NASA Astrophysics Data Systemから収集した163個のH0測定値を用いて、重み付き平均値とχ2検定による統計分析を行った。その結果、χ2値がデータ点数よりもはるかに大きく、統計的に有意な確率(Q≧0.05)を得るためには、27個もの外れ値を除外する必要があることがわかった。これは、測定値の誤差範囲が過小評価されているか、系統誤差が適切に考慮されていないことを示唆している。
誤差範囲の過小評価の要因
論文では、2000年頃までは、誤差が独立した方法による比較ではなく、推定によって決定されることが多く、系統誤差が無視され、統計誤差も過小評価されていたことが指摘されている。2000年以降は、ハッブル宇宙望遠鏡のキープロジェクトなどにより、誤差の定量化が進められたが、それでも2000年以降の測定値にも外れ値が含まれていることから、誤差範囲の過小評価の問題は完全には解決されていないことがわかる。
ハッブルテンションへの影響
論文では、誤差範囲の過小評価がハッブルテンションの問題に影響を与えている可能性を指摘している。ハッブルテンションとは、Ia型超新星などによる局所宇宙の観測から得られるH0の値と、宇宙マイクロ波背景放射の観測から得られるH0の値との間に食い違いがあるという問題である。論文では、過去の測定値の分析から、4.4σの矛盾は正規分布では2.1σの矛盾に相当し、6.0σの矛盾は2.5σの矛盾に相当することが示された。これは、誤差範囲の過小評価を考慮すると、ハッブルテンションはそれほど驚くべきものではないことを示唆している。
論文は、過去のH0測定における誤差範囲の過小評価の問題を指摘し、それが現在のハッブルテンションの問題にも影響を与えている可能性を示唆した。また、論文では、ハッブルテンションが過剰に注目されているという問題点も指摘し、宇宙論研究における社会学的側面についても考察している。