核心概念
1T-TaSSeのCDWモザイク相における超伝導は、ドメイン壁ではなく、CDWドメインに局在する状態密度によって引き起こされる。
要約
1T-TaSSeにおける超伝導の原子スケールマッピング
研究の背景と目的
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)は、電荷密度波(CDW)と超伝導という、一見相反する2つの集団電子状態が複雑に相互作用する物質群である。本研究では、セレン化によって超伝導を示す1T-TaSSeをモデル化合物として、CDWモザイク相における超伝導の微視的な起源を明らかにすることを目的とした。
実験方法
走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を用いて、1T-TaSSeのCDWモザイク相の電子状態を原子スケールで観察した。超伝導状態の空間的な均一性を調べるために、超伝導ギャップとコヒーレンスピークの空間分布を測定した。
結果と考察
- 1T-TaSSeのCDWモザイク相は、数十ナノメートルのコヒーレントなCDWドメインと、それらを隔てるドメイン壁(DW)から構成されている。
- 超伝導転移温度直上(T = 2 K)におけるゼロバイアスコンダクタンスマップから、状態密度(DOS)はDWよりもCDWドメインに局在していることが明らかになった。
- 超伝導状態(T = 0.34 K)におけるトンネル分光測定から、1T-TaSSeはΔBCS = 0.24 ± 0.02 meVの単一ギャップを持つBCS型超伝導体であることがわかった。
- 超伝導ギャップとコヒーレンスピークの空間分布は、DWの存在とは無関係に均一であり、超伝導がCDWドメインとDWネットワークの両方で均一に発達していることを示唆している。
結論
本研究の結果は、1T-TaSSeのCDWモザイク相における超伝導が、DWではなく、CDWドメインに局在する状態密度によって引き起こされることを示唆している。この発見は、TMDにおける超伝導とCDW秩序の相互作用に関する理解を深める上で重要な知見となる。
統計
超伝導ギャップの大きさ: ΔBCS = 0.24 ± 0.02 meV。
超伝導転移温度: Tc = 1.5 ± 0.1 K。
超伝導ギャップと転移温度の比: 2Δ/kBTc = 3.7 ± 0.5。
上部臨界磁場: Bc2 = 3.4 ± 0.2 T。