核心概念
本稿では、大規模な量子コンピュータの実現に向けて有望な量子誤り訂正技術である、GKPコードと量子ビットコードを連結した方式のシミュレーション手法「ボソニックPauli+(BP+)」を提案する。BP+は、従来のシミュレーション手法では困難であった、多数のモードのダイナミクスを現実的なノイズモデルで効率的にシミュレートすることを可能にする。
Florian Hopfmueller, Maxime Tremblay, Philippe St-Jean, Baptiste Royer, and Marc-Antoine Lemonde. (2024). Bosonic Pauli+: Efficient Simulation of Concatenated Gottesman–Kitaev–Preskill Codes. Quantum, 8, 1144.
研究目的
フォールトトレラントな量子コンピュータ実現に向けた、Gottesman-Kitaev-Preskill(GKP)コードと量子ビットコードを連結した量子誤り訂正符号の性能を、現実的なノイズモデルを用いて大規模にシミュレートする手法を開発すること。
手法
ボソニックモードのヒルベルト空間を論理ヒルベルト空間と誤りヒルベルト空間に分解し、誤りヒルベルト空間を古典空間として近似する「ボソニックPauli+(BP+)」モデルを導入。
BP+モデルでは、誤り空間の基底間の遷移率を表す遷移行列と、各遷移に伴う論理ヒルベルト空間上のPauli誤りチャネルを指定するPauli誤り率を用いて、誤りチャネルを効率的に表現する。
有限エネルギーGKP量子ビットとsBsプロトコルに適した「sBs基底」を導入し、BP+モデルの精度向上を実現。
sBsプロトコルやCNOTゲートなど、量子ビットコードの実装に必要な演算に対するBP+モデルを、現実的な物理ノイズモデルを用いた時間発展シミュレーションから抽出。
データ量子ビットとして有限エネルギーGKP量子ビット、シンドローム量子ビットとして標準的な二準位系を用いたハイブリッド表面符号を想定し、BP+モデルを用いて論理誤り率を評価。
主な結果
BP+モデルを用いることで、従来手法では困難であった、多数のGKPモードからなる連結符号のシミュレーションが可能になる。
sBs基底を用いることで、BP+モデルの精度が向上する。
BP+モデルを用いたシミュレーションにより、ハイブリッド表面符号の論理誤り率を評価することができる。
結論
BP+モデルは、GKPコードと量子ビットコードを連結した量子誤り訂正符号の性能を、現実的なノイズモデルを用いて大規模にシミュレートするための効率的かつ正確な手法である。
意義
本研究は、GKPコードを用いたフォールトトレラントな量子コンピュータの実現に向けた重要な一歩となる。BP+モデルは、連結符号の設計や最適化、誤り訂正プロトコルの開発などに活用されることが期待される。
限界と今後の研究
本研究では、単一モードのGKPコードと表面符号を連結した符号のみを対象としている。多モードGKPコードや他の量子ビットコードへの適用可能性については、今後の研究が必要である。
BP+モデルは、誤りヒルベルト空間を古典空間として近似しているため、誤り空間における量子効果を無視している。より高精度なシミュレーションのためには、誤り空間における量子効果を考慮する必要がある。