核心概念
C. elegansは、バクテリアが産生するイソアミルアルコール(IAA)を嗅覚的手がかりとして利用し、必須アミノ酸であるロイシンが豊富な細菌を選んで摂食する。
要約
線虫C. elegansにおける嗅覚に基づく必須アミノ酸の認識
書誌情報:
Callaham, G. R., Mathew, N., Sivakumar, R., Al-Fageeh, M., Chng, Q., & Srinivasan, V. (2023). Olfactory basis for essential amino acid perception during foraging in Caenorhabditis elegans. PLOS Genetics, 19(10), e1010701. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010701
研究目的:
本研究は、土壌に生息する線虫Caenorhabditis elegansが、必須アミノ酸(EAA)を多く含む細菌をどのようにして探し出し、選択的に摂食するのか、その嗅覚メカニズムを解明することを目的とした。
方法:
C. elegansの自然環境における共生細菌群であるCeMbioを用い、各細菌種に個々のEAAを添加した場合の線虫の摂食選好性を、「匂いのみ」の選好性試験により評価した。
ガス クロマトグラフィー質量分析法(GC-MS/MS)を用いて、各細菌のヘッドスペース中の揮発性物質を分析し、EAA添加による変化を調べた。
線虫の嗅覚神経細胞であるAWAおよびAWCの機能を欠損させた変異体を用い、特定の匂いに対する応答と摂食選好性への影響を評価した。
野生型線虫と比較して特定の匂いに対する応答が変化した変異体を用い、IAAの受容体候補となるGタンパク質共役受容体(GPCR)を同定した。
主要な結果:
C. elegansは、CeMbioに属する特定の細菌種(Enterobacter hormaechei、Lelliottia amnigena、Sphingobacterium multivorum)に対して、ロイシンを添加した場合にのみ、摂食選好性を示した。
ロイシンを添加した細菌のヘッドスペースでは、イソアミルアルコール(IAA)の濃度が有意に増加していた。
AWC嗅覚神経細胞を欠損させた線虫は、ロイシン添加細菌に対する選好性を示さず、IAAに対する走化性も低下していた。
AWC神経細胞で発現するGPCRであるSRD-12を欠損させた線虫は、IAAに対する走化性が低下し、ロイシン添加細菌に対する選好性も低下していた。
結論:
C. elegansは、細菌が産生するIAAを嗅覚的手がかりとして利用し、ロイシンが豊富な細菌を選んで摂食する。IAAは、細菌におけるロイシン代謝経路であるEhrlich経路によって産生される。AWC神経細胞で発現するSRD-12は、IAAの受容体として機能し、線虫の摂食行動を制御する。
意義:
本研究は、線虫における嗅覚に基づく栄養素探索の分子メカニズムを明らかにした初めての報告である。IAA-SRD-12経路は、線虫が自然環境において最適な栄養源を獲得するために重要な役割を果たしていると考えられる。
統計
C. elegansは、10種類の必須アミノ酸のうち、ロイシンが添加された細菌に対してのみ選好性を示した。
ロイシンを添加した細菌のヘッドスペースでは、IAAが全体の最大90%を占めていた。
ilvE遺伝子の発現量は、ロイシンを添加した細菌において有意に増加した。
野生型線虫9系統はすべて、IAAに対して強い走化性を示した。