核心概念
自閉スペクトラム症(ASD)児の非定型的な表情を客観的に分析するために、新たに開発された顔面動作ユニット(AU)データセット「ハグミー・レインマン(HRM)」を紹介する。HRMは、ASD児と定型発達(TD)児の表情動画から約13万フレームを収録し、FACS専門家による22種類のAU、10種類の動作記述子(AD)、および非定型性評価が付与されている。HRMを用いた分析により、ASD児はTD児と比較して、同じ感情表現時でも複数のAU/ADに有意な差が見られ、より不規則で多様な表情パターンを示すことが明らかになった。さらに、AUの時間的特徴を用いて主観的な非定型性の知覚を予測する手法を探求し、客観的な顔の特徴と主観的な知覚との関連性を示唆する結果を得た。
本稿では、自閉スペクトラム症(ASD)児の非定型的な表情を分析するために、新たに開発された顔面動作ユニット(AU)データセット「ハグミー・レインマン(HRM)」を紹介する。HRMは、ASD児と定型発達(TD)児の表情動画から約13万フレームを収録し、FACS専門家による22種類のAU、10種類の動作記述子(AD)、および非定型性評価が付与されている。
データセットの特徴
対象:ASD児66名(男児53名、女児13名)、TD児32名(男児18名、女児14名)
年齢:2歳から12歳
フレーム数:約13万フレーム
アノテーション:
22種類のAU
10種類のAD
表情セグメントに対する非定型性評価(5段階のリッカートスケール)
データ収集方法
表情誘発課題:
静止画および動画を用いた表情認識、模倣、誘導課題
図形アナジー推論課題
収録環境:特別支援学校および幼稚園
収録機器:
フィリップスCurio 24インチオールインワンコンピュータ
Tobii Eye Tracker 5
Empatica E4リストバンドRev. 2
Hikvision 4Kカメラ
ロジテック1080Pカメラ
データアノテーション
AU/ADアノテーション:FACS専門家2名により、独自に開発したアノテーションツールを用いて実施
非定型性評価:FACS専門家2名、学生1名、経験豊富な母親2名の計5名により、5段階のリッカートスケールを用いて評価
データ分析結果
ASD児はTD児と比較して、同じ感情表現時でも複数のAU/ADに有意な差が見られた。
例:喜びの表現時、AU6(頬の持ち上げ)とAU7(まぶたの締め付け)に有意差
ASD児は、より複雑で多様なAUの組み合わせを示した。
AUの時間的特徴を用いることで、表情の非定型性に対する主観的な知覚を予測できる可能性が示唆された。
結論
HRMは、ASD児の非定型的な表情を客観的に分析するための貴重なデータセットである。今後、HRMを用いた研究により、ASD児の社会的コミュニケーションにおける困難の理解が深まり、効果的な支援方法の開発に繋がることが期待される。
統計
ASD児66名、TD児32名
約13万フレーム
22種類のAU
10種類のAD
非定型性評価(5段階のリッカートスケール)
AU6 (Z = −29.493, P < 0.001)
AU7 (Z = −47.485, P < 0.001)
AU12 (Z = −2.236, P = 0.025)