核心概念
不注意による盲目状態であっても、被験者は、気づかなかったと主張する刺激の特徴を報告できるという、これまでで最も強力な証拠が示された。これは、不注意が意識を完全に消し去るのではなく、むしろ意識の程度が低下することを示唆している。
要約
不注意による盲目における残存視覚感受性:注意は意識に必要なのか?
この論文は、認知心理学における重要な現象である「不注意による盲目(IB)」に関する5つの実験の結果を報告しています。IBとは、注意を集中している課題に集中していると、視界に入っているはずの予期しない刺激に気づかない現象です。従来のIB研究では、被験者が「何も見えなかった」と報告した場合、その刺激に対する意識は完全に欠如していたと解釈されてきました。
しかし、本研究では、従来のIB課題にいくつかの修正を加えることで、この解釈に疑問を呈しています。具体的には、
- 従来の「何か気づきましたか?」という質問に加え、気づかなかったとされる刺激の特徴(色、形、位置など)を具体的に尋ねる質問を追加しました。
- 刺激を提示しない「欠席試行」を設け、被験者が実際には見えていても「見えなかった」と答える傾向(保守的なバイアス)を測定しました。
- オンライン実験により、大規模なサンプルサイズ(25,000人以上)を確保し、信号検出理論を用いた分析を可能にしました。
その結果、
- IB状態であっても、被験者は気づかなかったと主張する刺激の色、形、位置を有意に高い確率で報告できました。
- 被験者は、刺激の有無にかかわらず、「何も気づかなかった」と答える保守的なバイアスを示しました。
これらの結果は、IB状態でも視覚的な情報はアクセス可能であり、従来の解釈のように意識が完全に欠如しているわけではないことを示唆しています。つまり、不注意は意識を完全に消し去るのではなく、その程度を低下させる可能性があります。
本研究は、IBに対する従来の解釈に再考を迫るものであり、意識を全か無かではなく、連続的な現象として捉えることの重要性を示唆しています。
統計
実験1では、非注意群の63.6%が、気づかなかったと報告した刺激の位置を正しく答えることができた。
実験2では、非注意群の81%が、気づかなかったと報告した刺激の色を正しく答えることができた。
実験3では、「何も気づかなかった」と自信を持って答えた被験者群(N = 204)でさえ、刺激の位置に対する感受性が有意に高かった(d'2afc= 0.34; 95% CI = [0.08, 0.60])。
実験4では、非注意群は、刺激の色(d' = 0.82, 95% CI = [0.61, 1.04])と形(d' = 0.21, 95% CI = [0.01, 0.42])の識別において、偶然よりも有意に高い成績を示した。
実験5では、非注意群は、刺激の色(d' = 0.12, 95% CI = [0.02, 0.23])と形(d' = 0.23, 95% CI = [0.13, 0.33])の識別において、偶然よりも有意に高い成績を示した。
引用
"one can have one’s eyes focused on an object or event … without seeing it at all" (Carruthers, 2015, emphasis added).
"We suggest that more evidence, particularly from well-powered pre-registered experiments, is needed before solid conclusions can be drawn regarding implicit processing during inattentional blindness" (Nobre et al., 2022).