核心概念
従業員と企業の利害が一致するネガティブショックは、従業員のエンベデッドネスを高め、定着率向上につながる。
要約
研究概要
- 書誌情報: Balthrop, A., & Jung, H. (2024). Shared Hardships Strengthen Bonds: Negative Shocks, Embeddedness and Employee Retention. arXiv preprint arXiv:2404.00183v2.
- 研究目的: 本研究は、従業員と企業の利害が一致するネガティブショックが、従業員の定着率に与える影響を検証する。
- 方法論: 21社の運送会社から収集した、466,236件の従業員とのコミュニケーション記録と45,873件の雇用期間データを用いて、Cox比例ハザードモデルによる生存時間分析を行った。
- 主要な結果: 機器関連のショックなど、従業員と企業の利害が一致するネガティブショックは、従業員の定着率を向上させることが明らかになった。一方、給与や休暇に関するショックなど、利害が一致しないネガティブショックは、定着率を低下させる傾向が見られた。
- 結論: 従業員と企業が共通の困難を経験することで、従業員のエンベデッドネスが高まり、定着率が向上する可能性がある。
- 意義: 本研究は、従業員定着のための新たな視点を提供するものであり、企業は従業員との利害の一致を意識した経営を行うことの重要性を示唆している。
- 限界と今後の研究: 本研究は運送業界に焦点を当てたものであり、他の業界への一般化可能性については更なる検証が必要である。
本文要約
本研究は、従業員定着における「ネガティブショック」の影響に焦点を当てています。従来の研究では、ネガティブショックは従業員の離職意向を高めるとされてきましたが、本研究では、従業員と企業の利害が一致する場合、ネガティブショックが従業員の定着率向上につながるという、逆説的な結果が示されました。
運送業界における従業員定着の課題
- 業界の年間離職率は90%を超え、企業に大きなコスト負担を強いている。
- 仕事のルーティン化が進み、企業特有の人的資本が形成されにくいため、従業員は企業に縛られにくい。
- リモートワークが中心であるため、同僚との関係構築が難しく、企業へのエンベデッドネスが低い。
ネガティブショックとエンベデッドネス
- 従業員は、予期せぬネガティブショックを経験すると、自身の雇用関係を見つめ直すようになる。
- 企業と従業員の利害が一致するネガティブショックは、従業員のエンベデッドネスを高める可能性がある。
- 例えば、機器の故障は、企業と従業員の双方にとって望ましくない出来事だが、共通の課題として認識することで、従業員は企業への帰属意識を高めることがある。
分析結果
- 機器関連、オペレーション関連、待ち時間関連のショックは、従業員の定着率を向上させる傾向が見られた。
- これらのショックは、企業と従業員の利害が一致しており、共通の課題解決に向けて協力する機会を提供することで、従業員のエンベデッドネスを高めていると考えられる。
実務への示唆
- 企業は、従業員が経験するネガティブショックの種類を見極め、利害の一致するショックを積極的に活用することで、従業員のエンベデッドネスを高め、定着率向上を図ることができる。
- 従業員とのコミュニケーションを強化し、共通の課題に対する理解を深めることが重要である。
統計
トラック運転手の年間離職率は、90%を超える。
運転手1人あたりの離職コストは、7,894ドルから15,705ドルに及ぶ。
アメリカの全国平均の自主退職率は2.2%である。
分析対象となったデータには、466,236件のコミュニケーション記録と45,873件の雇用期間データが含まれている。
データは、21社の運送会社から収集された。
最も頻繁に発生した問題は、機器関連(33.7%)、給与関連(18%)、 disrespect(10.3%)、安全/倫理関連(8.7%)であった。