核心概念
カフェ酸フェネチルエステル(CAPE)は、クロストリディオイデス・ディフィシル毒素TcdBを直接阻害し、腸内細菌叢を調整することで、CDIの有望な治療薬となりうる。
要約
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症に対するCAPEの治療効果に関する研究論文要約
参考文献: Guo, Y., Zhang, Y., Wang, GZ. et al. Blocking Toxin Function and Modulating the Gut Microbiota: Caffeic Acid and its Derivatives as Potential Treatments for Clostridioides difficile Infection.
掲載誌: Signal Transduct Target Ther 8, 322 (2023).
研究目的: 本研究は、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)に対する新たな治療法として、カフェ酸およびその誘導体の有効性とメカニズムを評価することを目的とした。
方法:
- CDIを引き起こす主要な毒素であるTcdBに対する阻害剤を、細胞ベースのハイスループットスクリーニングにより探索した。
- スクリーニングで同定されたカフェ酸フェネチルエステル(CAPE)について、TcdBへの結合、毒素の細胞内侵入、自己切断、グルコシルトランスフェラーゼ活性に対する影響を調べた。
- CDIマウスモデルを用いて、CAPEの治療効果を評価した。具体的には、体重変化、糞便中の細菌量、腸管の病理組織学的変化を観察した。
- CAPE投与による腸内細菌叢と代謝産物への影響を、16S rRNAシーケンシングとメタボロミクス解析により評価した。
主な結果:
- CAPEは、細胞ベースのスクリーニングにおいて、TcdBによる細胞円形化を阻害することが明らかになった。
- CAPEはTcdBに直接結合し、InsP6誘導性の自己切断を抑制し、グルコシルトランスフェラーゼ活性を阻害することで、TcdBの細胞毒性を抑制することが示された。
- CDIマウスモデルにおいて、CAPEの経口投与は、下痢症状の軽減、細菌量の減少、腸管組織損傷の軽減など、有意な治療効果を示した。
- CAPE投与は、CDIマウスの腸内細菌叢の多様性と組成を回復させ、特にBacteroidesなどの有益な細菌の増加が見られた。
- メタボロミクス解析の結果、CAPE投与により、アデノシンやメラトニンなど、CDIの治療効果と関連する代謝産物のレベルが変化することが明らかになった。
結論: CAPEは、TcdBを直接阻害し、腸内細菌叢を調整することでCDIの病態を抑制する。これらの知見は、CAPEがCDIの新たな治療薬となる可能性を示唆している。
意義: 本研究は、CDIに対する新たな治療戦略として、毒素の阻害と腸内細菌叢の調整の両方に着目した点で意義深い。CAPEは、既存の抗生物質とは異なる作用機序を持つため、薬剤耐性菌の問題を克服する可能性も秘めている。
限界と今後の研究: 本研究は、CAPEのCDIに対する治療効果をin vitroおよびin vivoで示したが、ヒトにおける有効性と安全性を確認するためには、さらなる臨床研究が必要である。また、CAPEの腸内細菌叢および代謝産物への影響を詳細に解析することで、その作用機序の全容解明が期待される。
統計
米国では、クロストリディオイデス・ディフィシルは年間約50万件の感染症と約2万9,000人の死亡の原因となっている。
CDIの年間医療費は最大48億ドルと推定されている。
抗生物質治療は、35%以上のCDI患者に効果がなく、感染症の再発につながる可能性がある。
カフェ酸フェネチルエステル(CAPE)のIC50値は3.0 μg/mLであった。
CAPE 4 μg/mLで前処理した毒素を注射したマウスは、72時間後も100%生存した。
CAPE 32 μg/mLでは、GTD活性の87.5%が阻害された。
CAPE治療により、TcdBのα-ヘリックス含有量は15.4%から21.0%に増加し、β-シート含有量は34.5%から20.9%に減少した。
CAPEと完全長TcdBのKD値は1.269×10-5 M、CAPEとGTDのKD値は1.007×10-3 Mであった。
CAPE治療により、CDIマウスのBacteroidesの abundanciaが有意に増加した。
CAPE治療により、CDIマウスの腸内アデノシン濃度が増加した。
CAPE治療により、CDIマウスの腸内D-プロリン濃度が低下した。
CAPE治療により、CDIマウスの糞便中のメラトニン濃度が上昇した。
メラトニン100 μg/mLとTcdBを併用すると、TcdBによる細胞死が有意に軽減された。
メラトニン200 mg/kgを経口投与すると、CDIマウスの下痢が顕著に軽減された。
引用
「クロストリディオイデス・ディフィシルは、院内下痢症の最も一般的な原因であり、公衆衛生を脅かす重大な脅威となっている。」
「高病原性株や薬剤耐性株の蔓延による罹患率と死亡率の増加は、世界的な懸念事項となっている。」
「2019年、米国疾病管理予防センターは、クロストリディオイデス・ディフィシルを、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やESBL産生腸内細菌科細菌を上回る「緊急の脅威」に指定した。」
「抗生物質治療にもかかわらず、35%以上のCDI患者が再発しやすい感染症にかかりやすいが、これは主に、抗菌剤の固有の効果であるマイクロバイオータを破壊するためである。」
「カフェ酸フェネチルエステル(CAPE)は、プロポリスの主成分であり、ヨーロッパやアジアでは何千年もの間、治療薬として使用されてきた天然のミツバチ産生物質である。」
「抗生物質によって誘発される腸内細菌叢のディスバイオシスは、CDIの主なリスク因子である。」
「マイクロバイオータに加えて、腸内代謝産物も、疾患の進行を促進または抑制することにより、CDIの病因に重要な役割を果たしている。」