核心概念
本稿では、スペインのセグラ流域を対象に、人工知能(AI)技術を活用した統合水資源管理(IWRM)の新しいアプローチを提案し、水資源の需給バランスの最適化、環境への影響の最小化、経済効果の最大化を実現する意思決定システムの開発と運用について論じている。
研究論文概要
書誌情報
Otamendia, U., Maiza, M., Olaizola, I. G., Sierra, B., Flores, M., & Quartulli, M. (2024). Integrated Water Resource Management in the Segura Hydrographic Basin: An Artificial Intelligence Approach. Journal of Environmental Management.
研究目的
本研究は、スペイン南東部のセグラ流域における水資源管理の最適化を目指し、人工知能技術を活用した新しい統合水資源管理(IWRM)アプローチの開発と評価を行うことを目的とする。
方法論
データ収集: セグラ流域の気象データ、水文データ、土地利用データ、農業データ、社会経済データを収集。リアルタイム監視システム、リモートセンシングデータ、歴史記録などを活用。
水資源予測: 気象予測モデル(WRF)と分散型水文モデル(DHM)を用いて、短期(15日間)および長期(6か月)の水資源賦存量を予測。
需要予測: 深層学習に基づく農作物生育予測モデルと経験的需要曲線を活用し、都市部、農業、工業、サービス、湿地における水需要を予測。
意思決定システム: 補完的水文モデル(CHM)と混合整数線形計画法(LP)を用いて、需要-供給バランス、経済効果、CO2排出量を考慮した最適な水資源配分を決定。
システム統合: 開発したIWRMシステムをセグラ水利組合の運用環境に統合し、Webアプリケーションを通じてユーザーインターフェースを提供。
主な結果
開発したIWRMシステムは、セグラ流域の複雑な水文システムと水利用パターンを効果的にモデル化し、水資源配分の最適化を実現。
従来のIWRMシステムと比較して、AI技術の活用により、予測精度、意思決定の効率性、環境サステナビリティが大幅に向上。
2024年4月2日から9月29日までの6か月間の長期最適化シナリオでは、推定需要710.24 hm3に対し、約641.92 hm3の供給を割り当て、約9.7%の不足を見込む結果となった。
水不足は主に農業需要に影響を与えるが、最適化アルゴリズムはCO2排出量を考慮し、工業需要よりも農業需要を優先。
都市部の水需要は、水質や供給源の制約により供給量が影響を受ける場合があるものの、他の需要タイプよりも優先される。
結論
本研究で開発されたAIベースのIWRMシステムは、セグラ流域における水資源管理の効率性、持続可能性、公平性を向上させるための効果的なツールとなる可能性を示している。
意義
本研究は、AI技術が複雑な環境問題の解決に効果的に適用できることを示しており、水資源管理分野におけるAIの応用を促進する可能性がある。
制限と今後の研究
本研究で開発されたIWRMシステムは、セグラ流域の特定の条件に合わせて調整されているため、他の流域に適用するには、水文モデルの再調整が必要となる場合がある。
今後の研究では、気候変動の影響、水質管理、水紛争解決などの要素をIWRMシステムに統合することが課題として挙げられる。
統計
セグラ流域の農業活動は、総水需要の87%を占めている。
セグラ流域では、年間平均1,700hm3の水需要があり、そのうち800hm3は流域内の天然資源から供給されている。
セグラ流域の年間平均降水量は、地域によって異なり、年間1,000 mmを超える地域もあれば、はるかに少ない地域もある。
セグラ流域には、177の水域(河川、湖沼、貯水池、地下水源)が存在する。
セグラ水利組合の調査によると、セグラ流域では年間1,410hm3の自然水供給を管理しており、そのうち764hm3は流域内で得られる。
セグラ流域では、水不足のため、脱塩(302hm3/年)や水再利用(263hm3/年)などの非伝統的な水源が近年増加している。
セグラ流域の水需要は、都市部(11.84%)、農業(87%)、工業(0.5%)、サービス(0.66%)の4つの主要カテゴリーに分類される。
2021年のセグラ流域の総水需要は、1,696.9hm3と推定されている。
都市部の水需要は、10年間で年間需要の8%を超えない範囲で満たされると考えられている。
セグラ流域の農業需要ユニット(ADU)の有効灌漑面積は448.5ヘクタールで、62のADUに分割されている。
セグラ流域には、7つの非接続型産業需要ユニット(IDU)と10つのサービス需要ユニット(SDU)が存在する。
セグラ流域の湿地維持に必要な水需要は、年間31.67hm3と推定されている。
本研究で開発された意思決定システムは、水不足の最小化(重み0.6)、環境への影響(重み0.3)、経済効果(重み0.1)を考慮して最適化を行う。
2024年4月2日から9月29日までの6か月間の長期最適化シナリオでは、約641.92 hm3の水供給が割り当てられ、推定需要710.24 hm3に対して約9.7%の不足が見込まれる。
表面水は、経済的および環境的コストが最も低いため、総使用量の60%を占めている。
脱塩水は環境負荷が最も高く、使用量は総使用量の4.4%と最も少ない。
地下水の使用は、過去の過剰な汲み上げにより、現在ではほとんど残っていない。
都市部の水需要は、主に水質規制のため、表流水と移送水を使用している。