核心概念
乳児の脳血流推定における課題を克服するため、空間的不確性を考慮した新しい物理法則に基づくニューラルネットワーク(PINN)であるSUPINNが提案され、従来の手法よりも正確で空間的に一貫性のある脳血流マップの作成を実現した。
要約
論文概要
本論文は、乳児の動脈スピンラベリング(ASL)MRIデータから脳血流(CBF)およびその他の生理学的パラメータを推定するための、空間的不確性を考慮した新しい物理法則に基づくニューラルネットワーク(PINN)であるSUPINNを提案する研究論文である。
研究の背景
- ASLは、外来性の造影剤を使用せずにCBFを測定できる非侵襲的なMRI技術である。
- 乳児、特に先天性心疾患(CHD)や早産児の場合、未熟な自己調節と発達感受性のために、心臓と脳の相互作用が脆弱であり、脳血流の正確な測定が重要となる。
- 従来のボクセル単位のASL解析は、乳児の灌流強調画像(PWI)信号の低SNRノイズの影響を受けやすく、空間的なばらつきが生じやすい。
- PINNは、物理法則を機械学習モデルに統合することで、限られたノイズの多いデータからでも予測能力を向上させることができる。
研究の目的
本研究の目的は、ノイズの多い乳児ASL画像から血行動態パラメータを確実に推定するためのツールとしてPINNを導入および評価することである。
提案手法 (SUPINN)
- SUPINNは、2つの主要なノイズ軽減のための改善点を組み込んでいる。
- 空間的不確性の考慮: 隣接するボクセルは同様の局所パラメータ(CBFや到着時間など)を共有すると仮定し、各測定値の信頼度をその空間的変動によって重み付けする。
- 複数ボクセルからの情報統合: 被験者内で全てのボクセルで同一である大域パラメータ(T1bなど)については、複数ボクセルから同時に学習して共有大域パラメータを推定するマルチブランチアーキテクチャを採用。
- 各SUPINNブランチは、時間tの入力ユニット1つとPWI信号S(t)の出力ユニット1つを持つ、双曲線正接活性化関数と2つの隠れ層(それぞれ32ユニット)を持つ全結合ニューラルネットワークを採用。
- 損失関数は、データとの一致度とODEとの一致度を測定する項を組み合わせたものを使用。
評価方法
- 対象:生後32週から78週の乳児7名(うち3名は病理なし、4名は様々な神経学的障害あり)
- データ:Philips 3T Achievaスキャナーで取得したASL脳MRIデータ
- 比較対象:標準PINN、ロバスト最小二乗法(LSF)、3つのボクセルからのパラメータ推定を平均化する修正LSF(LSF-multi)
- 評価指標:相対誤差、Laplacian分散(空間的平滑性の指標)、平均二乗誤差(MSE)
結果
- SUPINNは、標準PINNおよびLSF/LSF-multi法と比較して、PWI信号(順方向)およびパラメータ(逆方向)の推定において優れたパフォーマンスを示した。
- SUPINNは、特にCBFにおいて、より正確なパラメータ推定を実現した。
- SUPINNは、すべての被験者において、他の方法と比較して、CBFのREが低いことを示した。
- SUPINNは、最も低いLaplacian分散を達成し、CBFとATの両方において、より空間的に一貫性のある予測を示した。
結論
- SUPINNは、ノイズの多いデータから局所パラメータと大域パラメータを同時に推定できる新しいPINN手法である。
- 乳児のASLデータを用いて、SUPINNが標準PINNとLSFの両方よりも優れていることを実証した。
- SUPINNは、様々な臨床状況において、診断、モニタリング、治療計画のための正確な生理学的データを提供する貴重な臨床ツールとなる可能性がある。
今後の展望
- より大規模な乳児コホート(健常児とCHDの両方を含む)を含めて評価を拡大し、SUPINNの堅牢性と一般化可能性を検証する。
- ボクセル選択戦略の最適化や、グラフベースのアプローチなど、代替のPINNアーキテクチャの探求により、CHDを含む様々な臨床シナリオにおいて重要な空間的関係をより適切に表現することで、パフォーマンスをさらに向上させることができる。
統計
7名の乳児(生後32~78週)を対象とした。
3名の乳児は病理を持たず、1名は脳室周囲白質軟化症、1名は基底核と白質萎縮と軽度の脳室拡大、1名は脳梁無形成、脳萎縮、軽度の脳室拡大、1名は軽度の脳室拡大を患っていた。
すべての画像は、Philips 3T Achievaスキャナーで、8エレメントヘッドコイルを使用して取得された。
PWIは、単一の中脳横断面において、単一のパルスラベリングイベントの後、12つの時点(300ミリ秒ごと)で、3.04×3.04×5.5mm3の空間分解能で取得された。
すべての被験者において、視床と基底核を含む関心領域を手動でセグメント化した。
SUPINNは、CBFで-0.3±71.7、ATで30.5±257.8、T1bで-4.4±28.9のREを達成した。
SUPINNは、すべてのケースにおいて、CBFで0.4±0.4、ATで0.1±0.1のLaplacian分散を達成した。
引用
"This study introduces and evaluates PINNs as a tool for reliably estimating haemodynamic parameters from noisy infant ASL images."
"Our proposed SUPINN architecture, designed to address variable data noise levels and simultaneously estimate local and global parameters, showed excellent performance on infant ASL data."
"SUPINN led to more accurate parameter estimates, especially for CBF."
"SUPINN also demonstrated resilience in estimating parameters for infants with neurological disorders."
"SUPINN’s applicability extends to other problems where ODEs are solved over neighbouring regions with similar parameters."