核心概念
基板上に形成した従来の遷移金属ダイカルコゲナイド単層を用いた系では、励起子ポラリトン特性が基板の影響を強く受けてしまう問題があったが、本研究では、WS2単層をマイクロキャビティ中に宙づり構造で配置することで基板の影響を排除し、励起子ポラリトン相互作用の増強に成功した。
要約
本論文は、WS2単層をマイクロキャビティ中に宙づり構造で配置することで、励起子ポラリトン相互作用が増強されることを示した研究論文である。
研究目的
- 基板と遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)単層の相互作用が、励起子ポラリトン特性に与える影響を調査する。
- TMD単層を宙づり構造にすることで、基板の影響を排除し、励起子ポラリトン相互作用を向上させることができるかどうかを実験的に検証する。
実験方法
- 300 nmの深さの穴を有するSi/SiO2基板上に、WS2単層を転写し、宙づり構造を作製した。
- 作製した宙づり構造WS2単層と、従来型の基板上に形成したWS2単層を用いて、それぞれマイクロキャビティを作製した。
- 作製したマイクロキャビティに対し、光学特性評価(フォトルミネッセンス測定、反射率測定、時間分解フォトルミネッセンス測定)を実施した。
結果
- 宙づり構造WS2単層では、基板上に形成したWS2単層と比較して、フォトルミネッセンス強度が10倍向上した。
- 宙づり構造WS2単層を用いたマイクロキャビティでは、ラビ分裂が56 meVと大きく、従来型のマイクロキャビティの2倍であった。
- 励起子相互作用定数(gexc)は、従来型のマイクロキャビティと比較して4倍向上した。
- スピン依存的な相互作用は、基板との相互作用を排除することで維持されることがわかった。
結論
- WS2単層をマイクロキャビティ中に宙づり構造で配置することで、基板の影響を排除し、励起子ポラリトン相互作用を効果的に増強できることが実証された。
- この成果は、TMD単層を用いた高性能な光デバイスの実現に向けて大きく貢献するものである。
意義
本研究は、TMD単層を用いた励起子ポラリトンデバイスの性能向上に大きく貢献するものである。基板の影響を排除することで、励起子ポラリトン相互作用を最大限に引き出すことが可能となり、将来的には、高効率な発光デバイスや量子情報処理デバイスへの応用が期待される。
限界と今後の研究
本研究では、WS2単層を対象とした実験が行われたが、他のTMD材料への適用可能性については今後の検討課題である。また、デバイス動作温度や安定性についても更なる改善が必要である。
統計
宙づり構造WS2単層のフォトルミネッセンス強度は、基板上に形成したWS2単層と比較して10倍向上した。
宙づり構造WS2単層を用いたマイクロキャビティにおけるラビ分裂は、56 meVであった。
従来型のWS2単層マイクロキャビティにおけるラビ分裂は、約28 meVである。
宙づり構造WS2単層を用いたマイクロキャビティにおける励起子相互作用定数(gexc)は、従来型のマイクロキャビティと比較して4倍向上した。
引用
"The ΩR found for the suspended monolayer in the strong coupling regime is twice that of a typical planar microcavity where the monolayer is embedded within two dielectric-filled DBRs"
"Moreover, interactions measured in our case are additionally enhanced by RT. The theoretical value gRTexc = 2.0804 µeV µm2 (see Section 5 of Supporting Information for calculation details) for the same-spin species appears to be 1.6 times larger than the estimate for T = 0, and is in excellent agreement with the lower-bound value 1.65 µeV µm2 obtained for our suspended WS2 microcavity when excited with circularly-polarized laser."