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新皮質の微小および中間回路のモデリングとシミュレーション パートII:生理学と実験


核心概念
生物学的に詳細な大規模な感覚皮質モデルは、in vivoの実験では困難な、皮質活動の根底にある複雑なマルチスケールな相互作用を理解するための強力なツールである。
要約

研究論文要約

書誌情報: Reimann, M. W., Anastasiades, P. G., Diaz-Pier, S., Ecker, A. S., El-Boustani, S., Gevaert, M., ... & Markram, H. (2022). Modeling and Simulation of Neocortical Micro- and Mesocircuitry. Part II: Physiology and Experimentation. Cerebral Cortex, 32(18), 3741–3761. https://doi.org/10.1093/cercor/bhac226

研究目的: 本研究の目的は、げっ歯類の体性感覚皮質をモデルとした、生物学的に詳細な大規模な神経回路モデルを構築し、その動態がin vivoの皮質活動と一致することを検証することである。

方法: 研究者らは、8つの体性感覚皮質サブ領域、420万個の形態学的および電気的に詳細なニューロン、132億個の局所および中間範囲のシナプスを含むモデルを構築した。ニューロンとシナプスの電気的特性は、in vitroの実験データを用いて最適化された。モデルの欠損領域からの入力は、ノイズを含む体細胞コンダクタンス注入によって補償された。モデルの妥当性を検証するために、自発活動と刺激誘発電位の両方をシミュレートし、in vivoの記録と比較した。

主な結果:

  • モデルは、in vivoで観察されるものと同様の、層状の平均発火率、非同期から同期までの自発活動のスペクトル、空間的に構造化された活動の変動、ロングテール型の発火率分布を再現した。
  • モデルは、単純な刺激に対する層状集団のミリ秒単位のダイナミクスと、下流領域への刺激誘発電位の選択的な伝播を再現した。
  • モデルは、標的を絞った光遺伝学的刺激と病変の正確なモデリングを通じて、より複雑な実験を再現および拡張することができた。
  • モデルは、皮質活動が高次元の結合モチーフや抑制性サブ集団による空間的ターゲティングルールによってどのように形成されるかについての予測を生成した。

結論: 本研究で開発された生物学的に詳細な大規模皮質モデルは、in vivoの実験では困難な、皮質活動の根底にある複雑なマルチスケールな相互作用を理解するための強力なツールである。このモデルは、皮質回路の組織と機能に関する新しい洞察を提供し、将来の神経科学研究の基盤となる可能性がある。

意義: 本研究は、大規模な神経回路モデルが脳機能の理解にどのように貢献できるかを示す好例である。このモデルは、感覚処理、学習、記憶などの認知プロセスを研究するための貴重なツールとなる可能性がある。

限界と今後の研究: モデルは、利用可能な実験データに基づいて構築されているが、まだ完全には網羅されていない。今後の研究では、新しいデータが利用可能になるにつれて、モデルの改良と検証を継続する必要がある。

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統計
モデルは、8つの体性感覚皮質サブ領域、420万個の形態学的および電気的に詳細なニューロン、132億個の局所および中間範囲のシナプスを含む。 モデルの欠損領域からの入力は、約2倍から7倍の内部シナプスに相当すると推定された。 パラメータ空間の72通りの組み合わせのうち、21通りがin vivoデータとの初期評価を通過した。 スパース性(刺激後に少なくとも1回発火するニューロンの割合)は、集団やメタパラメータの組み合わせによって異なったが、体性感覚皮質でin vivoで報告されている10~20%の範囲内であった。 シミュレートされた単一カラム内には、228個の錐体細胞と259個のPV陽性介在ニューロンがあり、ロバストなコントラスト同調を示した。 垂直に貫通する細胞外電極(50 µm)のスパイク検出範囲内には、15個の錐体細胞と13個のPV陽性介在ニューロンがあり、ロバストな同調を示した。
引用

深掘り質問

このモデルは、体性感覚皮質以外の脳領域、例えば視覚皮質や運動皮質にも適用できるのだろうか?

このモデルは体性感覚皮質のデータを使って構築されていますが、視覚皮質や運動皮質といった他の脳領域にも適用できる可能性はあります。なぜなら、脳の基本的な構成要素であるニューロンやシナプスの性質、それらの結合様式には、大脳皮質全体で共通する部分が多いからです。 しかし、脳領域ごとに異なる特徴も存在します。例えば、視覚皮質は方位選択性や方向選択性といった視覚情報処理に特化したニューロンの層構造や結合様式を持っていますし、運動皮質は運動の計画や実行に関わる神経回路を持っています。 したがって、このモデルを他の脳領域に適用するには、それぞれの領域に特化した神経回路の構造や機能に関するデータを追加し、モデルを再構築する必要があります。具体的には、以下のような作業が必要となります。 神経細胞の形態と電気生理学的特性のモデル化: 各脳領域に特異的なニューロンタイプを、形態や電気生理学的特性に基づいてモデル化する。 シナプス結合のモデル化: 各脳領域におけるニューロン間の結合様式やシナプス伝達の特性を、実験データに基づいてモデル化する。 外部入力のモデル化: 各脳領域が他の脳領域からどのような入力を受け取るかを考慮し、モデルに適切な外部入力を与える。 これらの作業は容易ではありませんが、近年急速に進展している脳の構造と機能に関する大規模なデータを取得することで、将来的には他の脳領域にも適用可能な、より汎用性の高い脳モデルを構築できる可能性があります。

モデルの構築に使用されたデータは、主にげっ歯類から得られたものであるが、ヒトの脳にどの程度まで一般化できるのだろうか?

げっ歯類の脳データに基づいて構築されたモデルをヒトの脳に一般化する際には、いくつかの注意点があります。 共通点: 基本的な神経細胞の構造と機能: ニューロンやシナプスといった脳の基本的な構成要素は、げっ歯類とヒトで共通している部分が多い。 大脳皮質の層構造: 大脳皮質の基本的な層構造も、げっ歯類とヒトで類似している。 相違点: 脳のサイズと複雑さ: ヒトの脳はげっ歯類に比べてはるかに大きく、複雑である。ニューロンの数、シナプスの数、脳領域の数などが大きく異なる。 高次認知機能: ヒトは言語や推論といった高次認知機能を有しており、これらの機能を担う脳領域や神経回路はげっ歯類よりも発達している。 これらの相違点を踏まえると、げっ歯類の脳モデルをそのままヒトの脳に適用することはできません。しかし、げっ歯類のモデルで得られた知見を基に、ヒトの脳に特化したモデルを構築することは可能です。 具体的には、以下のようなアプローチが考えられます。 ヒトの脳データの利用: ヒトの脳活動を計測する技術(fMRI, EEG, MEGなど)や、脳組織の構造を解析する技術(拡散テンソル画像、電子顕微鏡など)を用いて得られたデータを利用する。 数理モデルの拡張: げっ歯類の脳モデルで用いられている数理モデルを、ヒトの脳の複雑さに対応できるように拡張する。例えば、ニューロンの数やシナプスの結合確率などを調整する。 計算機シミュレーション: 構築したヒト脳モデルを計算機上でシミュレーションし、実際の脳活動と比較することで、モデルの妥当性を検証する。 これらのアプローチを組み合わせることで、ヒトの脳の機能や疾患のメカニズムを理解するための強力なツールとなる可能性があります。

このような詳細な脳モデリングは、脳疾患の新しい治療法の開発にどのように役立つだろうか?

詳細な脳モデリングは、脳疾患の新しい治療法の開発に大きく貢献する可能性があります。具体的には、以下の3つの段階で役立ちます。 1. 疾患メカニズムの解明: 疾患特異的な変化のモデル化: 脳疾患では、特定の神経細胞や神経回路に異常が生じることが知られています。詳細な脳モデルを用いることで、これらの異常をモデルに組み込み、疾患特異的な脳活動の変化をシミュレーションすることができます。 仮説の検証: 疾患メカニズムに関する様々な仮説を立て、モデル上でシミュレーションを行うことで、どの仮説が実際の疾患の症状を最もよく説明できるかを検証することができます。 2. 薬剤効果の予測と最適化: 薬剤の作用機序のモデル化: 開発中の薬剤が、特定の神経細胞や神経回路にどのような影響を与えるかをモデルに組み込むことで、薬剤投与後の脳活動の変化を予測することができます。 投与量や投与方法の最適化: モデルを用いることで、様々な投与量や投与方法を試行し、最も効果的な治療法を探索することができます。 3. 新規治療法の開発: 標的分子・細胞の特定: 脳モデルを用いたシミュレーションにより、疾患に重要な役割を果たしている分子や細胞を特定し、それらを標的とした新しい薬剤や治療法の開発につなげることができます。 非侵襲的な治療法の開発: 薬剤投与だけでなく、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流刺激(tDCS)といった非侵襲的な脳刺激療法の効果を予測し、最適な刺激条件を探索することもできます。 詳細な脳モデリングは、動物実験や臨床試験を行う前に、計算機上で様々な仮説を検証したり、治療法の効果を予測したりすることができるため、時間とコストの削減にもつながります。 もちろん、脳モデルはあくまでも現実の脳を単純化したものであるため、その限界を理解しておくことも重要です。しかし、実験的手法と組み合わせることで、脳疾患の克服に向けた強力な武器となることが期待されています。
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