核心概念
静的O’Shea-Zames-Falb乗数を用いた線形行列不等式(LMI)の双対問題を解析することで、従来手法では判断できなかった、非線形フィードバックシステムの絶対安定性を証明できないケースにおいても、システムが安定でないことを示す具体的な反例を導出できる。
要約
論文概要
本論文は、傾斜制限非線形性を有するフィードバックシステムの絶対安定性解析において、従来の静的O’Shea-Zames-Falb乗数を用いた線形行列不等式(LMI)による十分条件ではなく、LMIの双対問題を解析することで、絶対安定性を証明できない場合でも、システムが安定でないことを示す条件を導出している。具体的には、双対LMIの解が特定のランク条件を満たす場合、その解からシステムを不安定化する非線形オペレータと、その結果として得られる閉ループシステムのゼロでない平衡点を特定できることを示している。
研究の背景
近年、動的ニューラルネットワーク(NN)の安定性解析や、NNによって駆動される制御システムの性能解析への関心が高まっている。これらのシステムは、線形時不変(LTI)システムと非線形オペレータからなるフィードバックシステムとしてモデル化できるため、制御理論を適用した解析が可能となる。特に、NNはtanh、シグモイド、ReLUなど、様々な非線形活性化オペレータを持つため、多様な非線形オペレータを持つフィードバックシステムを解析する手法の確立が求められている。
研究内容
本論文では、傾斜制限非線形性と繰り返し非線形オペレータを持つシステムに焦点を当て、その絶対安定性解析を行っている。傾斜制限非線形性の入出力特性を捉えるのに有効なO’Shea-Zames-Falb (OZF) 乗数を用い、積分二次制約 (IQC) の枠組みでLMI条件を導出することで、フィードバックシステムの絶対安定性を保証する。しかし、これらのLMI条件は十分条件であるため、LMIが実行不可能な場合には、絶対安定性について何も結論付けることができない。
この問題に取り組むため、本論文では、IQCベースのLMIの双対LMIに着目する。その結果、双対LMIの解が特定のランク条件を満たす場合、以下の3点が導き出せることを示した。
- 仮定した傾斜制限非線形性のクラスの中から、対象となるフィードバックシステムを不安定化する非線形オペレータを抽出することができる。
- 抽出した非線形性を持つ閉ループシステムは、値を明示的に特定できる非ゼロの平衡点を持ち、それによってシステムは大域的に漸近安定ではないことが証明される。
- したがって、フィードバックシステムは絶対安定ではない。
数値例による検証
論文中では、数値例を用いて、提案手法の有効性を示している。具体的には、双対LMIが実行可能であり、得られた双対解Hがrank(H)=1であることを数値的に検証している。そして、定理1で示されたように、システムを不安定化する非線形オペレータと、その結果として得られる閉ループシステムのゼロでない平衡点を特定し、システムが絶対安定ではないことを確認している。
結論
本論文では、傾斜制限非線形性を有する非線形フィードバックシステムの絶対安定性解析において、静的OZF乗数を用いたLMIの双対問題を解析することで、従来手法では判断できなかった、システムが安定でないことを示す具体的な反例を導出できることを示した。
統計
論文中では、具体的な数値例において、行列A、B、C、Dの各要素の値、双対LMIの解である行列Hのランク、システムを不安定化する非線形オペレータの入力と出力の値、および閉ループシステムの平衡点の値が示されている。
引用
"However, since these LMI conditions are only sufficient conditions, we can conclude nothing about the absolute stability when the LMIs are infeasible."
"To address this issue, we focus on the dual LMIs [16] of these IQC-based LMIs."
"As the main result, we show that, if the solution of the dual LMI satisfies a certain rank condition, then 1) it is possible to extract a nonlinear operator, within the assumed class of slope-restricted nonlinearities, that destabilizes the target feedback system 2) the resulting closed-loop system with the extracted nonlinearity has a non-zero equilibrium point whose value can be explicitly identified, by which the closed-loop system is proved to be not globally asymptotically stable, 3) and hence the feedback system is not absolutely stable."