核心概念
この論文では、従来の液体シンチレータとは異なり、シンチレーション光を効率的に閉じ込めて読み出す、不透明な水ベース液体シンチレータ(oWbLS)を用いた新規な放射線検出器のプロトタイプについて解説し、その特性評価の結果を示しています。
要約
書誌情報
Apillueloz, J., Asquith, L., Bannister, E. F., ... & Yermia, F. (2024). Characterization of a radiation detector based on opaque water-based liquid scintillator. arXiv preprint arXiv:2406.13054v2.
研究目的
本研究は、不透明な水ベース液体シンチレータ (oWbLS) を用いた新規放射線検出器の特性を評価し、その分光能力と頂点再構成能力を実証することを目的とする。
方法
- 1リットルの検出器に、2つの異なる平面に配置された32本の波長シフトファイバー (WLS) を組み込んだプロトタイプ検出器を製作した。
- 異なる濃度の水を含む3種類のoWbLS (oWbLS1~3) を調製し、その光学的特性を評価した。
- ガンマ線源 (60Co, 137Cs, 22Na) を用いて、各oWbLSに対する検出器の応答を測定した。
- ファイバー結合レーザーを用いて検出器に既知の数の光子を注入し、oWbLS2の吸収長と縮減散乱長を決定した。
- レーザーパルスを用いて、検出器の頂点再構成能力を評価し、中心位置からのずれを定量化した。
主な結果
- oWbLSは、従来の液体シンチレータに匹敵する高い光量を示した。
- oWbLS2の吸収長と縮減散乱長は、それぞれ0.169 mと5.7 mmと測定された。
- ガンマ線を用いた測定では、散乱の強いoWbLSほど光収集効率が高く、oWbLS2が最適な性能を示した。
- レーザーパルスを用いた測定では、1.6 MeV相当のイベントで平均4.4 mm、0.8 MeV相当のイベントで7.4 mmの頂点再構成誤差が得られた。
結論
本研究では、oWbLSを用いた新規放射線検出器のプロトタイプが、分光分析と点状イベントの頂点再構成が可能であることを実証した。
この技術は、ガンマ線カメラや中性子散乱カメラ、ミューオン散乱トモグラフィーなど、従来の光学セグメント化検出器が用いられている用途に適用できる可能性がある。
意義
本研究は、高精度な頂点再構成が可能な、よりコンパクトで費用対効果の高い放射線検出器の開発に貢献するものである。
限界と今後の研究
- 本研究では、oWbLSの吸収長が予想よりも短いことがわかった。これは、WLSファイバーの光減衰やoWbLSの劣化などが原因として考えられる。
- 今後の研究では、oWbLSの光学的特性をより詳細に評価し、吸収長の不一致を検証する必要がある。
- また、より高い光量とエネルギー分解能を実現するために、バルクシンチレータの吸収長の増加や、高効率なシリコン光増倍管 (SiPM) の採用など、検出器設計の最適化を進める必要がある。
統計
oWbLSの光量は12000±2000 photons/MeVと測定された。
oWbLS2の吸収長は0.169 mと推定された。
oWbLS2の縮減散乱長は5.7 mmと推定された。
1.6 MeV相当のイベントの平均位置再構成誤差は4.4 mmであった。
0.8 MeV相当のイベントの平均位置再構成誤差は7.4 mmであった。
1.6 MeV相当のイベントのエネルギー分解能は30±2%であった。
0.8 MeV相当のイベントのエネルギー分解能は49±3%であった。