核心概念
イッテルビウム171原子核スピン量子ビットを用い、単一量子ビットゲートと、長寿命な時計状態とリドベルグ状態への励起に基づく2量子ビットゲートを組み合わせることで、高忠実度のユニバーサルゲートセットを実現した。
要約
イッテルビウム171原子核スピン量子ビットにおける高忠実度ユニバーサルゲート操作の実現
本稿は、Atom Computing社の研究チームによる、イッテルビウム171原子核スピン量子ビットを用いた高忠実度ユニバーサルゲートセットの実現に関する研究論文を要約したものです。
誤り訂正量子計算の実現には、多数の物理量子ビットに対して高忠実度のゲート操作と読み出しを行う必要があります。光トラップされた中性原子を用いたプラットフォームは、その高い忠実度と柔軟性から、量子コンピュータの実現に向けた有望なアーキテクチャとして注目されています。
本研究では、イッテルビウム171原子核スピン量子ビットを用い、単一量子ビットゲートと、長寿命な時計状態とリドベルグ状態への励起に基づく2量子ビットゲートを組み合わせることで、高忠実度のユニバーサルゲートセットを実現しました。
単一量子ビットゲート
単一量子ビットゲートは、ラマンビーム対を用いて実現しました。各原子に対して個別に位相と強度を制御可能なラマンビームを照射することで、並列処理と高精度な制御を実現しました。単一量子ビットゲートの忠実度は、Clifford Randomized Benchmarking (CRB)を用いて評価され、平均で99.963(2)%という高い値を達成しました。
二量子ビットゲート
二量子ビットゲートは、二段階の励起過程を経て、原子対をリドベルグ状態に選択的に励起することで実現しました。まず、時計状態|c⟩ = |3P0, mf = −1/2⟩に原子を励起し、次に紫外線レーザーを用いてリドベルグ状態|r⟩ = |65 3S1, F = 3/2, mf = −3/2⟩に励起します。この励起過程は状態選択的であり、リドベルグ遮断機構を利用することで、隣接する時計状態の原子対にのみ位相シフトを誘起し、CZゲートを実現します。
二量子ビットゲートの忠実度は、二量子ビットCRBとCZ-GERBという二つのベンチマーク手法を用いて評価されました。二量子ビットCRBでは、ランダムに生成された量子回路を用いてゲート操作を行い、初期状態への復帰確率を測定することで、平均ゲート忠実度を評価します。一方、CZ-GERBは、対称部分空間ベンチマークであり、エコーパルスを用いることで、単一量子ビット位相オフセットの影響を受けにくく、準静的ドリフトに対してよりロバストな測定が可能です。
その結果、二量子ビットCRB測定では、事後選択あり(なし)で99.40(4)% (98.93(4)%)、CZ-GERB測定では、事後選択あり(なし)で99.84(6)% (99.56(5)%)という高い忠実度を達成しました。