核心概念
本稿では、量子電荷結合素子(QCCD)アーキテクチャのスケーラビリティの主要な課題である、グリッドベースのイオントラップにおけるイオンの効率的な輸送と並べ替えについて説明する新しい手法を提案する。
要約
概要
本稿は、スケーラブルな量子コンピュータ構築を目指し、グリッドベースの表面電極トラップにおける多種イオン輸送の新しい手法を提案する研究論文である。
研究目的
- 大規模な量子コンピュータを実現するために不可欠な、二次元イオントラップにおけるイオンの効率的な輸送と並べ替えを実現する。
- 特に、量子電荷結合素子(QCCD)アーキテクチャのスケーラビリティ向上に貢献することを目指す。
手法
- グリッドベースの表面電極トラップを用い、各グリッドサイトに配置された制御電極を並列化することで、少数のアナログ電圧信号と単一のデジタル入力のみでサイト依存の操作を実現する「center to left or right (C2LR)」プリミティブを開発した。
- 2つの実験システム(¹⁷¹Yb⁺-¹³⁸Ba⁺イオンと¹³⁷Ba⁺-⁸⁸Sr⁺イオンを使用)を用いて、C2LRプリミティブに基づく条件付きサイト内結晶並べ替えと、隣接するサイト間でのイオンの条件付き交換を実証した。
- イオントランスポート中の運動励起を最小限に抑えるため、数値シミュレーションを用いて電位井戸の軌跡を最適化した。
- サイドバンド分光法を用いて、イオントランスポート後の運動状態を測定し、プリミティブの性能を評価した。
主要な結果
- C2LRプリミティブを用いることで、2.5 kHzの交換レートで、結晶の軸方向同位相モードと異位相モードにおいて、量子準位以下の運動励起を達成した。
- この手法は、ゲート操作、初期化、測定など、QCCDアーキテクチャにおける他の条件付き操作にも拡張できる可能性がある。
結論
本研究で実証されたC2LRプリミティブベースのイオン輸送手法は、大規模な二次元イオントラップの実現に向けた重要な一歩である。将来的には、集積フォトニクスやレーザーフリー量子ビット制御などの技術と組み合わせることで、数千量子ビットを超えるトラップイオン量子コンピュータの構築が可能になることが期待される。
意義
- 本研究は、QCCDアーキテクチャのスケーラビリティ向上に大きく貢献する。
- 提案された手法は、他の量子コンピューティングプラットフォームにも応用できる可能性がある。
制限と今後の研究
- 本稿では、ソフトウェアを用いてC2LRプリミティブの電圧交換を実現したが、将来的には、集積回路技術を用いたオンチップスイッチへの置き換えが期待される。
- より大規模なグリッドトラップを用いた実験を行い、提案手法のスケーラビリティをさらに検証する必要がある。
統計
イオントランスポート速度:最大10 m/s
スワップ操作レート:最大3.2 kHz
運動励起:量子準位以下 (2.5 kHzの交換レート)
トラップイオン:¹⁷¹Yb⁺-¹³⁸Ba⁺, ¹³⁷Ba⁺-⁸⁸Sr⁺
アキシャル周波数:Yb-BaでωXCOM/2π = 1.4 MHz、Ba-SrでωXCOM/2π = 1.85 MHz
引用
"These techniques can be further extended to implement other conditional operations in the QCCD architecture such as gates, initialization and measurement."
"This demonstration solidifies a key pillar in scaling up the QCCD architecture that, when combined with other crucial scalability efforts such as integrating photonics on chip [42–44] or controlling qubits without lasers [45, 46], will bring trapped ion quantum computers from the tens to the thousands of qubits and beyond."