核心概念
量子プロセス・トモグラフィーの手法であるアンシラ支援プロセス・トモグラフィー(AAPT)において、エンタングルメントは必須条件ではなく、システム-アンシラ状態の「忠実性」、すなわち特定の行列の可逆性があれば実行可能である。本稿では、忠実性の概念を操作的に定義し、二体分離可能混合状態を含む様々な量子状態におけるAAPTの実行可能性と誤差増幅の関係を「シニスターネス」という指標を用いて定量的に分析する。
要約
補助状態として二体分離可能混合状態を用いたアンシラ支援プロセス・トモグラフィー
書誌情報
Bao, Z., & James, D. F. V. (2024). Ancilla-Assisted Process Tomography with Bipartite Mixed Separable States. arXiv preprint arXiv:2312.14901v4.
研究目的
本研究は、未知の量子プロセスを特徴付けるために用いられるアンシラ支援プロセス・トモグラフィー(AAPT)において、エンタングルメント状態だけでなく、二体分離可能混合状態を含む様々な量子状態の有効性と誤差増幅の関係を明らかにすることを目的とする。
方法
本研究では、量子状態の「忠実性」を操作的に定義し、二体分離可能混合状態を含む様々な量子状態におけるAAPTの実行可能性を、状態の行列表示の可逆性と関連付ける。さらに、「シニスターネス」という指標を用いることで、誤差増幅と量子状態の相関を定量的に分析する。
主な結果
AAPTの実行にはエンタングルメントは必須条件ではなく、システム-アンシラ状態の「忠実性」、すなわち特定の行列の可逆性があれば実行可能である。
シニスターネスは、二体量子状態における相関を定量的に記述し、AAPTの成功可能性と誤差増幅の程度を予測する指標となる。
分離可能混合状態の中でも、シニスターネスの絶対値が最大となる状態は、誤差増幅の観点で最適な状態であり、その値は1/27である。
エンタングルメント状態を用いることで誤差増幅を抑制できる場合があるが、その効果はシニスターネスの大きさに依存し、1/27より小さい場合は分離可能混合状態と大きな差はない。
結論
本研究は、AAPTにおいてエンタングルメント状態だけでなく、二体分離可能混合状態も有効であることを示し、シニスターネスを用いることでその有効性と誤差増幅の関係を定量的に評価できることを明らかにした。
意義
本研究は、AAPTにおける量子状態の選択に関する新たな知見を提供し、より効率的な量子プロセス・トモグラフィーの実現に貢献するものである。
限界と今後の研究
本研究では、単一量子ビットの量子プロセスを想定している。今後の研究では、より複雑な多量子ビットの量子プロセスにおけるAAPTの解析や、シニスターネスに基づいた最適な量子状態の探索などが期待される。
統計
分離可能混合状態のシニスターネスの絶対値は最大で1/27である。