本研究では、選択的に成長させたトポロジカル絶縁体(TI)であるBi0.8Sb1.2Te3と、シャドウマスク蒸着法で形成したNb超伝導電極を用いて、三端子ジョセフソン接合を作製し、その低温輸送特性を測定した。その結果、この接合は、従来の超伝導体と三次元トポロジカル絶縁体の組み合わせが、マヨラナ粒子に基づく耐故障性トポロジカル量子コンピューティング回路の構築に有望なプラットフォームとなることを示唆している。
三次元トポロジカル絶縁体は、バルクは絶縁体だが表面に伝導状態を持つ新奇な物質であり、近年、トポロジカル量子コンピューティングへの応用可能性から大きな注目を集めている。特に、トポロジカル絶縁体ナノリボンをs波超伝導体で近接させ、ナノリボンに沿って磁場をかけると、マヨラナゼロモードと呼ばれるエキゾチックな準粒子が現れる。マヨラナゼロモードの編組操作は、トポロジカル量子コンピューティングにおける基本的な演算要素となる。この操作を実現するためには、複数の超伝導電極の超伝導位相を調整できる多端子構造が必要となる。そのため、三端子ジョセフソン接合は、これらのネットワークの重要な構成要素となる。
本研究では、選択領域成長とシャドウマスク蒸着を組み合わせた独自の技術を用いて、高品質な三端子ジョセフソン接合を作製した。この方法により、近接効果の研究に重要な、トポロジカル絶縁体と超伝導体の間の非常に優れた界面透明性を持つジョセフソン接合をその場で作製することができる。作製した素子の輸送特性を、バイアス電流と磁場の関数として、希釈冷凍機を用いて10 mKの極低温環境で測定した。
まず、個々の接合の特性を評価するために、三端子のうち一つをフローティング状態にして二端子測定を行った。その結果、全ての接合において、超伝導電流、ジョセフソン電流のヒステリシス、多重アンドレーエフ反射に起因すると考えられる微分コンダクタンスにおけるピーク構造など、ジョセフソン接合に特徴的な振る舞いが観測された。これは、選択領域成長とシャドウマスク蒸着を組み合わせた作製方法によって、高品質なジョセフソン接合が形成されたことを示している。
次に、三端子接合の特性を明らかにするために、二つの電極に電流を流し、残りの電極を接地した状態で、微分抵抗の電流バイアス依存性を測定した。その結果、二つの電流の組み合わせに応じて、超伝導状態を示す領域が広がっていることがわかった。これは、三端子接合において、電流が二つの異なる経路を流れ、互いに干渉することで現れる現象である。また、微分抵抗の電圧バイアス依存性を測定した結果、多重アンドレーエフ反射に起因すると考えられる等電位線が観測された。
さらに、三端子接合に垂直磁場を加えた状態で二端子測定を行ったところ、磁場の方向に依存してスイッチング電流の大きさが変化する、ダイオード効果が観測された。これは、素子構造に由来する空間反転対称性の破れと、磁場による時間反転対称性の破れの競合によって現れる現象であると考えられる。
本研究では、選択的に成長させたトポロジカル絶縁体とNb超伝導体を用いた三端子ジョセフソン接合を作製し、その輸送特性を詳細に調査した。その結果、多重アンドレーエフ反射や磁場誘起ダイオード効果など、完全結合した三端子接合の特徴的な振る舞いが観測された。これらの結果は、マヨラナゼロモードに基づくトポロジカル量子コンピューティングの実現に向けて重要な一歩となるものである。
他の言語に翻訳
原文コンテンツから
arxiv.org
深掘り質問