核心概念
本稿では、密度汎関数理論(DFT+U)を用いて、使用済みウラン dioxide 燃料に見られるキセノンと金属の特異な対構造の形成メカニズムを解明し、特にモリブデンがキセノンと最も安定した対構造を形成しやすい金属であることを明らかにした。
要約
書誌情報
Malakkal, L., Zhou, S., Mishra, H., Ke, J. H., Jiang, C., He, L., & Biswas, S. (2024). Xenon-metal pair formation in UO2 investigated using DFT+U. arXiv preprint arXiv:2411.13744v1.
研究目的
本研究は、ベルギー原子炉3号機(BR3)の使用済みウラン dioxide(UO2)燃料サンプルにおいて観察された、キセノン(Xe)と金属の対構造形成の基礎となるメカニズムを解明することを目的とする。
方法
- 第一原理計算に基づく密度汎関数理論(DFT+U)を用いて、UO2におけるキセノンと5種類の金属(モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、テクネチウム(Tc)、パラジウム(Pd))との相互作用を調査した。
- ハバードU補正を用いて、UO2の5f電子の強い相関を近似した。
- 2×2×2スーパーセルを用いて、様々な欠陥構造(単一欠陥、二量体欠陥、Xe-金属対欠陥)の形成エネルギーを計算した。
- 電荷密度解析とBader電荷解析を用いて、欠陥構造における電荷移動と電子相互作用を調べた。
主な結果
- Xe-金属対の形成エネルギーは、常に孤立した欠陥の形成エネルギーよりも低いことが明らかになった。これは、対になった構造の方がエネルギー的に有利であることを示唆している。
- Xe-金属対の安定性は、Mo > Tc > Ru > Pd > Rh の順であった。これは、検討した5つの金属の中で、MoがXeと最も安定した対構造を形成しやすい金属であることを示している。
- 電荷密度解析の結果、Moドーパントサイト周辺では著しい電荷の減少が見られ、Xeの存在下では電荷の蓄積が次の最近接原子にまで及ぶことが明らかになった。
- Bader電荷解析の結果、Moは最も大きな電荷の減少を示し、Pdは最も高い電荷を保持していることが明らかになった。特に、Mo-Xe-UO2系では、Moの電荷が最も低く、MoからXeへの強い電子移動を示唆している。
結論
本研究の結果は、使用済み核燃料における核分裂生成物の挙動の理解を深めるものである。DFT+U計算を用いることで、Xe-金属対構造形成の基礎となるメカニズムを明らかにすることができた。特に、Moは、検討した金属の中で、Xeと最も安定した対構造を形成しやすい金属であることが明らかになった。この知見は、核燃料マトリックスにおける欠陥相互作用の理解を深めるものである。
今後の研究
- BR3サンプルのエネルギー分散型X線分光法分析を実施し、実験的に検証する予定である。
- Xe-Mクラスターの安定性と形態を調べるために、DFT、平均場、粗視化アプローチを組み合わせたマルチスケールモデリングアプローチを用いる。
統計
調査対象となった使用済みUO2燃料サンプルの平均燃焼度は約40 MWdkg-1。
キセノン/クリプトンガスバブルと貴金属相の対構造は、どちらも約7nmのサイズを持つ。
DFT+U計算には、U = 4 eVの回転不変DFT+Uアプローチを採用した。
幾何学的最適化には、96原子からなる2×2×2スーパーセルを用いた。
平面波のカットオフエネルギーは550 eVとした。
エネルギー差の収束基準は10-6 eV/原子、残留力の収束基準は10-3 eV/Åとした。
引用
"The formation energies of the Xe-metal pairs are consistently lower than those of the isolated single defects, with Mo showing the most negative formation energy, likely accounting for the observed pair structure formation."
"These findings indicate that, of the metals investigated in this study, Mo is the most likely candidate to form a stable pair structure with Xe."