核心概念
本稿では、従来のエルビウムイオン注入によるマイクロ共振器作製よりも簡便でスケーラブルな手法として、ゾルゲル法によるエルビウムドープシリカマイクロトロイド共振器の作製方法について報告している。
要約
論文概要
本論文は、エルビウムドープ高Qシリカマイクロトロイド共振器のゾルゲルコーティングによるスケーラブルな作製方法について報告した研究論文である。
研究の背景
近年、希土類イオンや半導体材料を用いた光利得を持つオンチップフォトニック集積デバイスが注目されている。中でも、エルビウムイオンをドープした導波路増幅器は、そのコンパクトなサイズと高効率性から注目を集めている。しかし、既存のフォトニック構造へのイオン注入には、ホスト材料の結晶格子に欠陥や損傷が生じ、導波路や共振器の損失が増加するという欠点がある。
研究の目的
本研究は、従来のイオン注入法に代わる、簡便でスケーラブルなエルビウムドープマイクロトロイド共振器の作製方法を開発することを目的とした。
研究方法
本研究では、ゾルゲル法を用いてエルビウムドープシリカマイクロトロイド共振器を作製した。ゾルゲル法は、溶液中の有機または無機金属化合物を溶解させ、この溶液中で加水分解および重縮合反応を促進し、さらに加熱によって固化を誘導することにより、酸化物固体を製造する方法である。本論文では、従来の基板への膜堆積法と、予め作製した共振器に直接コーティングする新しい方法の2つの作製方法を比較した。
研究結果
従来の基板への膜堆積法では、膜厚が約300 nmに制限されるため、直径100 µm以下の共振器しか作製できなかった。一方、予め作製した共振器に直接コーティングする新しい方法では、直径450 µmの共振器を作製することができ、座屈も発生しなかった。また、この共振器は、高いQ値と350 µWの低いレーザー発振閾値を達成した。
結論
本研究で開発したゾルゲルコーティング法は、スケーラブルな利得ドープ型フォトニックデバイスを実現するための有望な技術であることが示された。
論文の構成
本論文は、以下の構成で記述されている。
- イントロダクション:光利得を持つオンチップフォトニック集積デバイスの重要性と、従来のイオン注入法の課題について述べている。
- ゾルゲル薄膜プロセスとトラブルシューティング戦略:ゾルゲル法による薄膜作製プロセスと、作製時に発生する可能性のある欠陥とその解決策について詳細に説明している。
- 膜評価とマイクロ共振器の作製:作製したゾルゲル薄膜の評価と、従来のフォトリソグラフィーを用いたマイクロ共振器の作製方法について述べている。
- 大型エルビウムドープマイクロトロイド作製のためのキャビティコーティング:予め作製したマイクロディスク共振器にゾルゲル薄膜をコーティングする新しい方法と、その評価結果について述べている。
- まとめ:本研究の成果をまとめ、ゾルゲルコーティング法の有用性と将来展望について述べている。
統計
ゾルゲル薄膜の厚さは、コーティング1回あたり約300 nmに制限される。
従来の基板への膜堆積法では、直径100 µm以下の共振器しか作製できなかった。
予め作製した共振器に直接コーティングする新しい方法では、直径450 µmの共振器を作製することができた。
作製したエルビウムドープマイクロトロイド共振器は、1550 nm帯でレーザー発振を示した。
レーザー発振閾値は約350 µW、レーザー効率は1.5%であった。
引用
"Incorporating ions into existing photonic structures is typically achieved through ion implantation [5], a process in which ions are accelerated under an electric field and directed into a substrate material. This technique allows the precise doping of the material to modify its optical properties. However, a significant drawback of ion implantation is that it can increase losses in waveguides and resonators, as the process may introduce defects and damage to the crystal lattice of the host material [21]."
"These fabrication methods are more straightforward than ion implantation and can be applied to various photonic integrated devices. Their simplicity and versatility make them promising techniques for advancing the development of optical components with enhanced performance."
"This study provides a reliable framework for fabricating erbium-doped optical devices, such as gain-doped photonic integrated circuits. It also demonstrates the potential of the sol-gel method for producing high-performance devices."