核心概念
本研究は、ナノスケールのパターンを持つ高配向性熱分解グラファイト(HOPG)において、角度分解光電子分光法(ARPES)を用いることで約100 meVのバンドギャップを観測したことを報告する。第一原理計算は、このバンドギャップがパターニング中に導入された機械的な歪みに起因することを示唆しており、実験結果とよく一致する。この発見は、テラヘルツデバイスやオプトエレクトロニクスなどの分野における応用が期待される、調整可能な電子特性を持つ材料の設計に向けた新たな道を切り開くものである。
要約
研究の概要
本論文は、ナノスケールグラファイトにおけるバンドギャップの出現について、計算科学および実験の両面から検証した研究論文である。従来、ギャップレス材料と考えられてきたグラファイトにおいて、ナノスケールのパターンを施すことでバンドギャップが生じることを、角度分解光電子分光法(ARPES)を用いた測定により明らかにした。
研究方法
- ナノスケールHOPGパターンは、集束イオンビーム技術を用いて単結晶HOPG基板上に作成した。
- 電子構造の測定には、上海放射光施設のビームライン09U1でARPESを用いた。
- 第一原理計算には、Green関数Korringa-Kohn-Rostoker(KKR)法を用い、光電子放出行列要素効果を考慮した。
研究結果
- ARPES測定の結果、ナノスケールHOPGパターンにおいて、約112±15 meVのバンドギャップが観測された。
- このバンドギャップは、量子閉じ込め効果ではなく、パターニング中に導入された引張歪みに起因することが、ラマン分光法およびDFT計算により示唆された。
結論
本研究は、ナノスケールHOPGにおいて、引張歪みにより調整可能なバンドギャップを生成できることを実証した。この発見は、テラヘルツデバイスやオプトエレクトロニクスなどの分野において、新たな材料設計の可能性を示唆するものである。
統計
ナノスケールHOPGパターンにおけるバンドギャップ:約112±15 meV
ナノHOPGパターンのサイズ:300 nm
ARPES測定のビームスポットサイズ:20 × 30 µm2
ラマン分光法における2Dバンドのピークシフト:4 cm-1
引用
"In this work, by using ARPES, we would like to study the electronic structure of highly oriented pyrolytic graphite (HOPG) which will be used as the representative of many-layer graphene."
"The square nano-scale patterning will be applied at the top surface of HOPG where we will call this nano HOPG."
"Note that this nano HOPG pattern whose the crystal orientation is preserved provides us a novel way to measure momentum-resolved ARPES data of a large collection of nano-scale samples."
"We found that the band gap opening of nano HOPGs could be clearly observed in contrast to the pristine HOPG."
"We further investigated the origin of gap opening with Raman spectroscopy and Density functional theory (DFT) calculations."