核心概念
本稿では、イオン捕捉実験における $^{40}$Ca+ イオン源として、大気暴露による酸化の影響を受けにくい CaTiO$_3$ ターゲットの有用性を、従来の Ca ターゲットと比較検証した吸収分光法による定量的評価を通して示している。
要約
パルスレーザーアブレーションを用いた原子ビーム生成に関する研究論文の概要
参考文献: Battles, K. D., McMahon, B. J., & Sawyer, B. C. (2024). Absorption Spectroscopy of 40Ca Atomic Beams Produced via Pulsed Laser Ablation: A Quantitative Comparison of Ca and CaTiO3 Targets. arXiv preprint arXiv:2406.17140v2.
研究目的: 本研究は、イオン捕捉実験に用いる $^{40}$Ca+ イオン源として、CaTiO$_3$ ターゲットが従来の Ca ターゲットに比べて有効かどうかを、パルスレーザーアブレーションで生成された中性 $^{40}$Ca 原子ビームの吸収分光法を用いて定量的に比較評価することを目的とする。
手法:
- 6インチの真空チャンバー内に設置した Ca および CaTiO$_3$ ターゲットに、パルスレーザーアブレーションを照射し、$^{40}$Ca 原子ビームを生成した。
- 生成された原子ビームに対し、423 nm の共振プローブレーザーを照射し、その吸収スペクトルを測定することで、原子ビームの密度、温度、速度などを評価した。
- さらに、大気暴露前後の両ターゲットにおけるプローブレーザー吸収率を比較することで、CaTiO$_3$ ターゲットの酸化に対する耐性を評価した。
主要な結果:
- CaTiO$_3$ ターゲットは、Ca ターゲットと比較して、大気暴露による酸化の影響を受けにくく、安定した原子ビーム生成が可能であることが示された。
- 具体的には、21時間の大気暴露後、Ca ターゲットでは原子ビームの生成が確認できなかったのに対し、CaTiO$_3$ ターゲットでは約50%の吸収率を維持していた。
- また、両ターゲットにおいて、アブレーションレーザーのフルエンスに対する原子ビームの密度、温度、速度の関係を明らかにし、CaTiO$_3$ ターゲットが Ca ターゲットと同等の性能を持つことを示した。
結論:
- CaTiO$_3$ ターゲットは、大気暴露による酸化の影響を受けにくいことから、頻繁な真空システムの変更や、組み立てに時間がかかる複雑な実験装置において、$^{40}$Ca+ イオン源として非常に有効である。
- 本研究で得られた原子ビームの密度や温度に関する知見は、より複雑なイオン捕捉装置におけるイオンローディング率の定量的評価に役立つと考えられる。
今後の研究:
- 本研究では、中性原子ビームの特性評価に焦点を当てているが、今後は、実際にイオン捕捉装置内で Ca+ イオンの生成効率を測定し、CaTiO$_3$ ターゲットの有効性をより直接的に検証する必要がある。
- また、アブレーションレーザーの波長やパルス幅などのパラメータが、原子ビームの特性に与える影響についても、詳細な検討が必要である。
統計
Ca ターゲットの縦方向プルーム温度は、レーザーフルエンス 0.1-0.3 J/cm2 の範囲で 5423-11804 K であった。
CaTiO3 ターゲットの縦方向プルーム温度は、レーザーフルエンス 0.1-0.3 J/cm2 の範囲で 8499-13453 K であった。
Ca ターゲットの縦方向プルーム速度は、レーザーフルエンス 0.1-0.3 J/cm2 の範囲で 1502-2215 m/s であった。
CaTiO3 ターゲットの縦方向プルーム速度は、レーザーフルエンス 0.1-0.3 J/cm2 の範囲で 1880-2365 m/s であった。
Ca ターゲットのドップラー広がりから得られた横方向プルーム温度は 2696(306) K であった。
CaTiO3 ターゲットのドップラー広がりから得られた横方向プルーム温度は 4211(334) K であった。
Ca ターゲットと CaTiO3 ターゲットは、それぞれ約 3.4(1)×10^4 回と 3.2(1)×10^4 回のアブレーションパルスに耐えることができた。
21 時間の大気暴露後、CaTiO3 ターゲットは約 50% のプローブレーザー吸収率を維持していた。
引用
"As with oven sources, oxidation of the target sample will reduce the available atom number density (e.g. during prolonged trap assembly or subsequent vacuum system breaks)."
"In this work, we directly compare calcium (Ca) and calcium-titanate (CaTiO3) ablation targets, characterizing the neutral atomic beam flux using resonant, time-resolved absorption spectroscopy of the 423 nm 1S0 →1P1 transition in neutral Ca."
"These results confirm that CaTiO3 is a good candidate for 40Ca+ experiments requiring frequent vacuum changes, or in complex experimental apparatuses where the vacuum system cannot be immediately pumped after oven assembly (e.g. some cryogenic systems)."