本論文は、モット絶縁体であるLaTiO₃におけるオルター磁性と軌道秩序の関係を、第一原理計算を用いて理論的に調べた研究論文である。
オルター磁性体とは、スピン軌道相互作用がない場合でも、k空間に依存したスピン分裂電子バンドを示す、正味の磁化を持たない特殊な反強磁性体である。
LaTiO₃は、これまでオルター磁性体としては検討されてこなかったが、その結晶構造と電子構造から、オルター磁性を示す可能性が考えられる。
本研究では、KKRグリーン関数法とコヒーレントポテンシャル近似を用いて、LaTiO₃の電子状態計算を行った。
その結果、LaTiO₃は、Tiイオンのt2g軌道が特定の秩序で占有されている場合に、オルター磁性を示すことが明らかになった。
具体的には、単位格子内のTiイオン対において、一方のTiイオンの(l=2, m=-1, sz=+1/2)状態が、もう一方のTiイオンの(l=2, m=+1, sz=-1/2)状態が占有されている場合に、オルター磁性が安定化される。
しかし、軌道 disorder が存在する場合、オルター磁性は不安定化し、通常の反強磁性状態に転移することがわかった。
これは、軌道 disorder により、Tiイオンの各サイトにおけるスピン偏極状態への寄与が、複数のt2g軌道からほぼ均等になされるようになり、スピン分裂が抑制されるためである。
本研究により、LaTiO₃は軌道秩序が存在する場合にのみオルター磁性を示す、不安定なオルター磁性体であることが明らかになった。
この結果は、LaTiO₃におけるスピン依存伝導現象や、LaTiO₃を用いたヘテロ構造における界面電子状態の形成機構の理解に重要な知見を与えるものである。
本研究は、LaTiO₃におけるオルター磁性の存在を理論的に示した初めての研究である。
また、軌道 disorder がオルター磁性に与える影響を明らかにした点でも、学術的に重要な貢献をしている。
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