核心概念
MeVからGeVの質量を持つスカラー粒子と擬スカラー粒子は、レプトンと光子の両方への結合を考慮に入れると、電子-陽電子衝突型加速器実験とミュー粒子の異常磁気モーメントの測定から厳しい制限を受ける。
要約
研究論文の概要
書誌情報
Aleksandr Pustyntsev and Marc Vanderhaeghen. (2024). Constraints for scalars and pseudoscalars from $(g-2)_l$ and existing $e^+e^-$ colliders. arXiv preprint arXiv:2407.20202v2.
研究目的
本研究は、MeVからGeVの質量範囲を持つスカラー粒子と擬スカラー粒子が、レプトンと光子の両方と結合する場合、既存および将来の電子-陽電子衝突型加速器実験とミュー粒子の異常磁気モーメントの測定から、どのような制限が得られるかを調査することを目的としています。
方法
- 軸性粒子(ALP)とスカラー粒子の両方の模型において、レプトンと光子への結合を導入し、それらが電子・ミュー粒子の異常磁気モーメント(g-2)_l や電子-陽電子衝突における3光子生成過程に及ぼす影響を計算しました。
- Belle II、LEP、BESIII などの電子-陽電子衝突型加速器実験データを用いて、ALPとスカラー粒子の質量と結合定数に対する制限を導出しました。
- 特に、Belle II実験の2018年のテストランデータと将来のデータ収集計画に基づいて、ALP探索感度の予測を行いました。
- 得られた制限と、ミュー粒子の異常磁気モーメントの理論値と実験値のずれを説明するために必要なパラメータ空間を比較しました。
主な結果
- Belle II実験の2018年のテストランデータは、LEP実験の結果と同等の感度でALP探索に貢献できることが示されました。
- Belle II実験の将来のデータ収集により、MeVからGeVの質量範囲におけるALPのパラメータ空間を大幅に狭めることが期待されます。
- レプトンと光子の両方への結合を考慮に入れると、ミュー粒子の異常磁気モーメントの理論値と実験値のずれを説明できるパラメータ空間は、既存の実験データによってすでに厳しい制限を受けていることがわかりました。
結論
本研究は、MeVからGeVの質量範囲を持つスカラー粒子と擬スカラー粒子の探索において、レプトンと光子の両方への結合を考慮することの重要性を示しました。 既存の電子-陽電子衝突型加速器実験とミュー粒子の異常磁気モーメントの測定データは、これらの粒子のパラメータ空間に対して厳しい制限を与えており、将来のBelle II実験などの実験によって、さらに感度が向上し、ミュー粒子の異常磁気モーメントの謎の解明に貢献することが期待されます。
意義
この研究は、標準模型を超える物理の兆候として注目されているミュー粒子の異常磁気モーメントの不一致を説明する可能性のある、ALPやスカラー粒子などの新しい粒子に対する制限を与えることで、素粒子物理学に貢献しています。
制限と今後の研究
- 本研究では、ALPとスカラー粒子が可視粒子に100%崩壊すると仮定していますが、暗黒物質粒子などの非可視粒子への崩壊 branching ratio が大きい場合は、得られた制限は適用できません。
- 今後の研究では、レプトンへの結合定数に対する制限を向上させるために、Belle II や BESIII 実験における電子-陽電子衝突からレプトン対生成などの過程を詳細に調べる必要があります。
統計
ミュー粒子の異常磁気モーメントの実験値と理論値のずれは、最大5σに達します。
Belle II実験では、2030年までに50 ab−1の積分ルミノシティのデータ収集が予定されています。
BaBar実験では、4 GeV より軽いALPのレプトンへの結合定数の上限は、100%のレプトンへの崩壊分岐比を仮定して、gaµµ ≲10−3 と求められています。
引用
"The interplay of both couplings is a decisive factor in this type of analyses."
"Our results show that the interplay of lepton and gauge boson ALP couplings plays a crucial role in both studies."