核心概念
JLabのb1実験で計画されているテンソル偏極重陽子を用いた深非弾性散乱実験において、重陽子の偏極方向が実験結果に与える系統誤差を、様々な運動学的条件下で定量的に評価した。
要約
JLabのb1実験では、重陽子のテンソル偏極構造関数b1を測定する実験が計画されている。b1は、重陽子のテンソル偏極非対称度ATを測定することで抽出されるが、ATにはb1以外にも複数の構造関数が寄与するため、b1を正確に抽出するためには、適切な近似を用いる必要がある。本論文では、重陽子の偏極方向として、仮想光子方向Nqと電子ビーム方向Neの2つを考え、それぞれの偏極方向における系統誤差を、重陽子畳み込みモデルを用いて定量的に評価した。
重陽子畳み込みモデルを用いた系統誤差の評価
- b1の抽出には、一般的に、いくつかの近似が用いられる。本論文では、特に、Callan-Gross関係式(b2=xb1)と、高twist構造関数b3とb4の寄与を無視する近似に着目した。
- これらの近似の妥当性を検証するため、異なる偏極方向(Nq, Ne)および異なる運動学的条件下(Q2=2 GeV2, 10 GeV2)で、重陽子畳み込みモデルを用いてATを計算した。
- 計算されたATから、上記の近似を用いてb1を抽出し、モデルの入力値として用いた「真の」b1と比較することで、系統誤差を評価した。
結果
- Q2=10 GeV2のような高いQ2値では、仮想光子方向Nqに偏極した場合の方が、系統誤差が小さいことがわかった。これは、Nq方向に偏極した場合、ATに寄与するテンソル構造関数の数が少ないことに起因する。
- 一方、JLabのb1実験で想定されるような低いQ2値(Q2=2 GeV2)では、Nq方向とNe方向のどちらに偏極した場合でも、系統誤差に大きな差は見られなかった。
- これは、低いQ2値では、無視された高twist構造関数b3とb4の寄与が大きくなるためであると考えられる。
- また、系統誤差の大きさは、核子構造関数や重陽子波動関数の選択にも依存することがわかった。
結論
本研究の結果、JLabのb1実験のように低いQ2値での実験では、重陽子の偏極方向として、電子ビーム方向Neを選択しても、系統誤差の増大は大きくないことが示唆された。ただし、系統誤差の大きさは、核子構造関数や重陽子波動関数の選択にも依存するため、実験データの解析においては、これらの不定性を考慮した詳細な解析が必要である。
統計
JLab実験の運動学的範囲は、0.8 GeV2 < Q2 < 5.0 GeV2、0.16 < x < 0.49である。
Q2 = 2 GeV2、x = 0.5では、γ = 0.66である。
Q2 = 10 GeV2、x = 0.5では、γ = 0.30である。
引用
"The b1 experiment is an experiment to run in Hall C of Jefferson Lab (JLab) that aims to measure the leading-twist tensor polarized structure function (SF) b1 of spin-1 hadrons, in this case the deuteron [1]."
"As shown in Fig. 1, the JLab experiment will cover DIS kinematics 0.8 GeV2 < Q2 < 5.0 GeV2 and 0.16 < x < 0.49, with 0 < x < 2 the rescaled Bjorken scaling variable and Q2 the momentum transfer squared."
"The tensor asymmetries and associated b1 values are typically small for inclusive DIS measurements."