核心概念
従来のGW法では正確に記述できなかった半導体や絶縁体のバンドギャップや電子構造を、GW+EDMFT法を用いることで高精度に計算できる。
要約
論文要約: 自己無撞着GW+EDMFT法による半導体および絶縁体の計算:局所頂点補正の重要性
論文情報
Christiansson, V., Petocchi, F., & Werner, P. (2024). Self-consistent GW+EDMFT for semiconductors and insulators. arXiv preprint arXiv:2410.19579v1.
研究目的
本研究は、多層GW+EDMFT法を用いて、元素および二元系半導体、絶縁体のバンドギャップや電子構造を高精度に計算することを目的とする。
方法
DFT計算から出発し、sおよびp特性を持つWannier関数を単位格子内の2つの原子サイトに投影することで、低エネルギーモデルを定義した。この低エネルギー空間において、GW+EDMFT方程式を自己無撞着に解き、関数の完全な運動量・周波数依存性と、非対角の非局所成分を保持した。計算は、逆温度β = 30 eV-1(T ∼ 390 K)で行われた。バンドギャップの抽出には、(i) Σ(iωn →0) 付近での自己エネルギーの線形化、(ii) G(iωn) の最大エントロピー(MaxEnt)解析接続を用いて A(ω) = −1/πImG(ω) を得る、という2つの独立したアプローチを用いた。
結果
- 多層GW計算では、バンドギャップが過大評価され、特にバンドギャップの大きい絶縁体(ダイヤモンドや窒化ホウ素)では、誤差が数eVにもなることがわかった。
- GW+EDMFT計算では、GW計算と比較して、バンドギャップが常に小さく、多くの系で実験値と非常によく一致することがわかった。
- GW+EDMFT計算から得られた準粒子ギャップは、MaxEntスペクトル関数Aloc(ω)から得られた値と全体的に良く一致した。
- GaAs、Ge、Siの理論スペクトルと実験的に得られたX線光電子分光法(XPS)と制動放射光等色線分光法(BIS)の結果を比較した結果、ピーク位置は非常によく一致したが、ピークの相対的な重みは異なっていた。
- ZnS、ZnSe、InP、GaAsの陽イオンの半コアd状態を計算に含めた結果、d状態は初期DFT計算に比べて押し下げられ、実験値と非常によく一致することがわかった。
結論
局所的な頂点補正(ここではEDMFTによって提供される)は、半導体やバンド絶縁体に対してGWを超えた正確な自己無撞着計算を可能にする関連する要素である。分極関数の補正により、局所的および非局所的なスクリーニングが強化され、標準的なscGW計算と比較して実証された改善につながる。
意義
本研究は、GW+EDMFT法が、従来のGW法では正確に記述できなかった半導体や絶縁体のバンドギャップや電子構造を、高精度に計算できることを示した。これは、物質の電子構造計算における重要な進歩であると言える。
今後の展望
今後は、スピン軌道相互作用や電子格子相互作用のバンドギャップへの影響、非局所的な頂点補正などを考慮した計算を行う必要がある。
統計
実験で測定されたSiのバンドギャップは1.17 eVであるのに対し、GW+EDMFT計算では1.20 eV、QSGW計算では1.41 eV、vcGW計算では1.26-1.32 eVであった。
実験で測定されたGaAsのバンドギャップは1.42 eVであるのに対し、GW+EDMFT計算では1.73 eV、QSGW計算では1.96 eV、vcGW計算では1.72-1.80 eVであった。
実験で測定されたダイヤモンドのバンドギャップは5.5 eVであるのに対し、GW+EDMFT計算では5.9 eV、QSGW計算では6.2 eV、vcGW計算では5.7-5.8 eVであった。
ZnSeのZnのs、p、d状態のWannier関数の広がりは、それぞれ2.7、4.4、0.3 Å2であった。
引用
"Fully self-consistent GW provides a poor description of the gap size and electronic structure due to the lack of vertex corrections."
"Here, we show that ab initio multitier GW+EDMFT calculations, which achieve full self-consistency in a suitably defined low-energy space, provide a remarkably accurate description of semiconductors and band insulators."
"Our results imply that despite the weak correlations, local vertex corrections are essential for a consistent treatment of this class of materials."