本論文は、二次元(2D)磁性材料であるクロム系リン三カルコゲナイド(CrPX3、X = S、Se、Te)単層膜における異方性磁気抵抗(AMR)効果を、密度汎関数理論(DFT)とボルツマン輸送方程式(BTE)を用いて系統的に調査した研究論文である。
スピントロニクス分野において、磁性材料の電気伝導率は磁気構造に依存し、磁気抵抗効果として知られる現象を引き起こす。AMR効果は、磁性材料に固有の効果であり、電流に対する磁化方向の変化と電気抵抗率の関係として定義される。バルク材料では様々なAMR現象が観察されているものの、その効果は一般的に弱い。近年、二次元磁性材料は、スピントロニクスにおける興味深い特性から、物性物理学研究の焦点となっている。実験的研究により、厚さ15~46nmの磁性ナノフレークにおいて、空間次元の縮小によって誘起される新しいAMR効果が観察されているが、そのメカニズムは明らかになっていない。
本研究では、DFTとBTE計算を用いて、CrPX3単層膜におけるAMR効果を調べた。その結果、これらの2D磁性化合物において、面内と面外の結晶軸間の自発的な対称性の破れに起因する、強い磁化(M)依存性スピン軌道結合(SOC)により、AMR効果が大幅に増強されることが明らかになった。磁化方向の変化は、CrPX3単層膜間で大きく異なるAMR挙動をもたらし、CrPS3は大きな負のAMRを示し、CrPSe3/CrPTe3は大きな正のAMR値を示した。この現象は、CrPX3における複雑なp/d軌道混成に密接に関係している。また、変数Xとしてより重いカルコゲン元素を選択することで、このSOCの強さ、ひいてはAMR効果の大きさを系統的に増加させることができることも示された。CrPTe3で観察された150%という大きなAMR値(Mがyz平面内で変化する場合)は、従来のAMRの予想とは大きく異なるものである。さらに、2D材料におけるAMRは、二軸歪みを印加することで効果的に変調できることも明らかになった。
本研究は、2D磁性材料における特異なAMR特性の存在を実証し、スピントロニクスデバイスへの応用可能性を示唆している。
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