核心概念
本稿では、新規反強磁性半導体における、室温以上のネール温度での、スピン軌道相互作用を伴わないピエゾバレー効果によるバレー分極誘起と、面内磁化によるバレー分極誘起という新たな機構について解説する。
要約
本稿は、第一原理計算に基づいた、新規反強磁性半導体におけるバレー分極誘起に関する研究論文である。
研究目的
本研究は、室温以上のネール温度を持つ新規反強磁性半導体、Nb2Se2O単層膜とNb2SeTeO単層膜において、バレー分極を誘起する新たな物理機構を探索することを目的とする。
手法
本研究では、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算を用いて、Nb2Se2O単層膜とNb2SeTeO単層膜の電子構造、磁気特性、フォノン分散、およびバレー分極に対する歪み効果を調べた。
主要な結果
- Nb2Se2O単層膜とNb2SeTeO単層膜は、いずれも室温以上のネール温度を持つ反強磁性半導体であることがわかった。
- スピン軌道相互作用を考慮しなくても、一軸性歪みによって両方の材料に大きなバレー分極が誘起されることがわかった。これは、主にピエゾバレー結合効果によるものである。
- Nb2SeTeO単層膜は、適切な二軸性圧縮歪みを加えることで、堅牢なディラック状バンド分散を持つ半金属になることがわかった。
- スピン軌道相互作用を考慮すると、面内磁化によってNb2SeTeO単層膜にバレー分極が生じることがわかった。これは、従来の強磁性体や反強磁性体とは異なる、反強磁性体特有の現象である。
結論
本研究は、反強磁性半導体におけるバレー分極誘起の物理的起源を明らかにし、バレーエレクトロニクスにおける室温での応用可能性を広げるものである。
意義
本研究は、反強磁性材料がバレートロニクスデバイスの有望な候補となりうることを示唆しており、将来の低消費電力スピントロニクスデバイスの開発に貢献する可能性がある。
限界と今後の研究
本研究では、第一原理計算に基づいてバレー分極誘起を予測したが、実験的に検証する必要がある。また、バレー分極の大きさはSOCの強さの二乗に正比例し、バンドギャップに反比例することがわかったため、より強いSOCと小さいバンドギャップを持つ正方晶反強磁性体において、面内磁化によって誘起されるより大きなバレー分極が見つかる可能性がある。
統計
Nb2Se2O単層膜のネール温度は835 K。
Nb2SeTeO単層膜のネール温度は745 K。
Nb2Se2O単層膜のバンドギャップは336.382 meV。
Nb2SeTeO単層膜のバンドギャップは84.226 meV。
-3.44%の圧縮歪みを加えたNb2Se2O単層膜の価電子帯におけるバレー分極は最大値264.076 meV。
-4%の二軸性圧縮歪みを加え、[100]方向に磁化させたNb2SeTeO単層膜のバレー分極は最大値21.10 meV。
引用
"The present work reveals the physical origin of valley polarization in altermagnets and expands the application of ferrovalley at room temperature in valleytronics."
"Therefore, we speculate the larger valley polarization induced by 𝑀∥ can be found in tetragonal altermagnets with strong SOC and small bandgap."