核心概念
本論文では、高次qBICモードの高い放射Q値と浅いエッチング設計における散乱損失の低減を活用することで、従来の設計と比較して実験的なQ値を約1~2桁向上させ、105を超えるQ値を実現した低コントラストシリコンメタサーフェスについて報告する。
要約
書誌情報
Watanabe, K., Nagao, T., & Iwanaga, M. (2024). Low-Contrast BIC Metasurfaces with Quality Factors Exceeding 100,000. Nano Letters, 24(4), 1238–1245. https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.3c04174
研究目的
本研究は、低コントラストシリコンメタサーフェスにおける高次準結合連続体(qBIC)モードを活用することで、超高品質係数(Q値)を達成することを目的とする。
方法
- シリコンオンインシュレータ(SOI)ウェハ上に、エッチング深さの異なる浅いエッチングを施したシリコンペアアレイで構成されるBICメタサーフェスを設計・作製した。
- 電子ビームリソグラフィーとドライエッチングを用いて、シリコンエッチング深さを精密に制御した。
- 作製したメタサーフェスの光学特性を、波長可変レーザーとフォトダイオードを用いた透過測定により評価した。
- 有限差分時間領域法(FDTD)と有限要素法(FEM)を用いてシミュレーションを行い、実験結果と比較した。
主な結果
- 浅いエッチング設計により、高次qBICモードの放射Q値が向上し、製造欠陥による散乱損失が低減されることがわかった。
- エッチング深さ82.7 nm、非対称パラメータ1%のメタサーフェスにおいて、共振ピーク波長1560.3 nmで101,486という記録的なQ値を達成した。
- 水溶液中での屈折率センシングにおいて、サブピコメートルのピーク波長変動が観測され、環境屈折率の変化に対して10-5の検出限界を達成した。
結論
本研究で実証された超高Q値メタサーフェスは、ナノスケールでの強い光と物質の相互作用を必要とする幅広い分野、特に高感度センシングや非線形光学への応用が期待される。
意義
本研究は、従来のBICメタサーフェス設計の限界を克服し、超高Q値を実現するための新しいアプローチを提供するものである。本研究で得られた知見は、高性能光学デバイスやセンサーの開発に貢献するものである。
制限と今後の研究
- 本研究では、エッチング深さが50 nm以下の場合、Q値の向上が見られなかった。これは、製造誤差や構造のばらつきによる散乱損失が、低いエッチング深度では無視できないためと考えられる。
- 今後の研究では、製造プロセスをさらに改善し、散乱損失を最小限に抑えることで、Q値をさらに向上させることができる。
- また、異なる材料やメタサーフェス設計を探求することで、Q値と感度のトレードオフの改善を目指すことができる。
統計
エッチング深さ82.7 nm、非対称パラメータ1%のメタサーフェスにおいて、共振ピーク波長1560.3 nmで101,486という記録的なQ値を達成した。
水溶液中での屈折率センシングにおいて、サブピコメートルのピーク波長変動が観測され、環境屈折率の変化に対して10-5の検出限界を達成した。
従来報告されている誘電体メタサーフェスのQ値は、ほとんどが1000以下であった。
引用
"In this study, we experimentally demonstrate BIC metasurfaces with a record-high Q factor of 101,486 under normal excitation of light in the telecom wavelength range achieved by employing low-contrast silicon pairs."
"Our findings show that such ultrahigh-Q factors can be attained by leveraging both the high radiative Q factors of higher-order qBIC modes and reduced scattering losses in shallow-etched designs."
"The experimental Q factor of our low-contrast BIC metasurface was one order of magnitude higher than the highest Q factor of 18,511 reported to date."