核心概念
本稿では、従来の真空紫外線光検出器における課題を克服するため、アモルファスセレンとグラフェンを用いた新規な垂直積層型光検出器の開発と、その特性評価の結果について報告する。
要約
液体希ガス検出器用新規光検出器の開発
本稿は、高エネルギー物理学実験で用いられる液体希ガス検出器に用いるための、新規な真空紫外線(VUV)光検出器の開発と特性評価に関する研究論文である。
研究の背景
- 液体アルゴン(LAr)や液体キセノン(LXe)を用いた時間投影型検出器(TPC)は、高エネルギー物理学実験において重要な役割を担っている。
- これらの検出器では、シンチレーション光を検出するために波長変換物質が用いられるが、変換効率の低さや極低温環境下での劣化が課題となっている。
- アモルファスセレン(aSe)は、VUV光を効率的に電子-正孔対に変換できるため、代替材料として期待されている。
研究の目的
- 垂直積層構造を持つaSeベースのVUV光検出器を開発し、その特性を評価すること。
- 特に、グラフェンを上部電極として用いることで、電界の均一性と電荷収集効率の向上を目指す。
実験方法
- スパッタリング法と熱蒸着法を用いて、シリコン基板上にaSe薄膜と金属電極を積層した素子を製作した。
- 上部電極には、クロムまたはチタン/金(Ti/Au)を用いた。
- 一部の素子には、湿式転写法により多層グラフェンを成膜した。
- 真空チャンバー内でキセノンフラッシュランプを用いて素子に光を照射し、光誘起信号を測定した。
- 素子の温度を変化させながら測定を行い、極低温環境下での特性を評価した。
結果
- aSeベースの垂直積層型素子は、室温および極低温環境下(約130K)において、キセノンフラッシュランプからの光を検出することができた。
- 上部電極にグラフェンを成膜することで、光誘起信号の振幅が約10倍に増強されることが確認された。
- これは、グラフェンによってaSe薄膜内の電界が均一化され、電荷収集効率が向上したためと考えられる。
結論
- 本研究により、グラフェンを上部電極として用いた、新規な垂直積層型aSeベースVUV光検出器の開発に成功した。
- グラフェンを用いることで、電荷収集効率が向上し、より高感度な光検出が可能になることが示された。
- 今後は、さらに低い温度環境下での特性評価や、異なる金属電極を用いた場合の特性評価などを実施する予定である。
本研究の意義
- 本研究で開発されたaSeベースのVUV光検出器は、従来の波長変換物質を用いた光検出器に比べて、変換効率が高く、極低温環境下での劣化が少ないという利点がある。
- この技術は、将来の大規模な時間投影型検出器の開発に貢献することが期待される。
統計
素子の活性領域の面積は最大12.5cm2である。
キセノンフラッシュランプのパルス周波数は1Hz、デューティサイクルは1%である。
温度変化測定では、キセノンフラッシュランプのパルス周波数を25mHzに変更し、40秒ごとに1つの光誘起パルスを測定した。
グラフェンを成膜することで、光誘起信号の振幅が約10倍に増強された。
引用
"Our results provide the first demonstration of a vertical aSe based VUV photodetector that utilizes the wide-band optical transparency of graphene top-electrode."
"We also demonstrate a significant enhancement in the amplitude of the photoinduced signal by growing graphene on the top-metal contact and the aSe thin film."