本論文は、宇宙線エネルギー・スペクトルにおける「膝」と呼ばれる構造の起源を解明するために、新しい概念である「対数質量エネルギー・スペクトル」を提唱し、LHAASOによる観測データを用いて分析を行っている。
従来の研究では、宇宙線の組成を特徴付けるために平均対数質量⟨ln A⟩が用いられてきた。本研究では、この平均対数質量を用いて、新しい概念である「対数質量エネルギー・スペクトル」を以下のように定義する。
M = Σ(fi * ln Ai) = F * m
ここで、Aiは宇宙線核種の質量数、fiは陽子から鉄までの各元素のフラックス、F = Σfiは宇宙線の全粒子エネルギー・スペクトル・フラックス、mは平均対数質量である。
この対数質量エネルギー・スペクトルは、各元素の寄与がそれぞれの対数質量によってスケールされた重み付きスペクトルと見なすことができる。注目すべきは、陽子の対数質量は0であるため、対数質量エネルギー・スペクトルには寄与しない点である。
もし、膝の形成において陽子が支配的であれば、対数質量エネルギー・スペクトルは膝付近で明確な構造を示さない。逆に、他の核種が支配的であれば、対数質量エネルギー・スペクトルは全粒子エネルギー・スペクトルと同様に膝状の構造を示す。
分析の結果、対数質量エネルギー・スペクトルは10PeVまでは徐々に減少し、10PeV以降は上向きに曲がることが明らかになった。また、9.7±0.2PeVに足首状の構造が見つかり、これは鉄が原因であることが判明した。
陽子が膝の形成に主要な役割を果たしているかどうかを検証するために、仮説検定が行われた。その結果、陽子が膝の形成に寄与しないという仮説は棄却され、陽子が膝の形成に大きく寄与していることが示された。
膝が電荷数Zに依存するのか、質量数Aに依存するのかを調べるために、全粒子エネルギー・スペクトルFと対数質量エネルギー・スペクトルMを組み合わせた「カクテル戦略」が用いられた。
FとMに基づいて、軽元素のエネルギー・スペクトル・フラックスLをF-M/ln 56として作成した。このLは、陽子フラックスとヘリウムフラックスの0.66倍を加えたものにほぼ等しい。
Lを用いた仮説検定の結果、陽子とヘリウムの両方が膝領域で屈曲していることが示唆された。さらに、ヘリウムと陽子のカットオフエネルギーの比を分析した結果、質量依存型ではなく、硬直依存型の膝であることが明らかになった。
対数質量エネルギー・スペクトルで発見された10PeV付近の足首状構造は、鉄の過剰によって引き起こされることが明らかになった。
本研究では、対数質量エネルギー・スペクトルという新しい概念を用いることで、宇宙線エネルギー・スペクトルにおける「膝」の構造は、主に陽子のスペクトル変化によって形成され、10PeV付近に見られる「足首」のような構造は鉄の過剰によって引き起こされることを明らかにした。
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