核心概念
遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)を用いた太陽電池において、ホットキャリアの効率的な抽出とキャリア増殖(CM)を同時に実現するために、超薄膜広帯域共鳴トンネリング(BRT)バリアであるTiOX層を導入することで、開放電圧と短絡電流が大幅に向上し、変換効率が向上することを実証した。
要約
モリブデン硫化物/グラフェン/酸化チタンヘテロ構造における広帯域共鳴トンネリングを介したカスケードホットキャリア
研究目的
本研究の目的は、モリブデン硫化物(MoS2)/グラフェン/酸化チタン(TiOX)ヘテロ構造において、広帯域共鳴トンネリング(BRT)バリアとして機能する超薄膜TiOX層を導入することで、ホットキャリア太陽電池としての性能向上を図ることである。
方法
- MoS2、グラフェン、窒化ホウ素(hBN)の各層を機械的剥離法により作製し、hBN基板上にvdWヘテロ構造を形成した。
- 電子線リソグラフィーと反応性イオンエッチングを用いて、所望の形状に加工した。
- グラフェン層上に原子層堆積法を用いて、異なる厚さのTiOX層を形成した。
- 様々な波長のレーザーを用いた光電流測定、太陽光発電シミュレーターを用いたAM 1.5 G照射下での電流-電圧特性評価、X線光電子分光法によるTiOX層の酸化状態分析を行った。
主な結果
- TiOX層を導入することで、MoS2/グラフェン/TiOX/Ti太陽電池セルにおいて、開放電圧(VOC)が従来のMoS2/グラフェン/Tiセルと比較して2桁向上し、最大0.7 Vに達した。
- 短絡電流密度(JSC)もTiOX層の導入により大幅に向上し、最大5.7 mA cm-2に達した。
- TiOX層の厚さを最適化することで、VOCとJSCが最大となる厚さが約2.8 nmであることがわかった。
- TiOX層の酸化状態分析により、Ti3+とTi4+の両方の酸化状態が存在することが明らかになり、これが広帯域共鳴トンネリングによるホットキャリアの効率的な抽出に寄与していると考えられる。
結論
本研究では、MoS2/グラフェンヘテロ構造に超薄膜TiOX層をBRTバリアとして導入することで、ホットキャリア太陽電池のVOCとJSCを大幅に向上させることに成功した。これは、TiOX層における広帯域共鳴トンネリング効果により、ホットキャリアが効率的に抽出されたためと考えられる。
研究の意義
本研究は、TMD材料を用いたホットキャリア太陽電池の性能向上に向けた新たなアプローチを提供するものである。特に、BRTバリアの導入によるホットキャリア抽出効率の向上は、将来の高効率太陽電池開発に大きく貢献する可能性がある。
制限と今後の研究
本研究では、MoS2/グラフェンヘテロ構造にのみ焦点を当てているため、他のTMD材料への適用可能性については更なる検討が必要である。また、TiOX層の長期安定性や製造コストについても、実用化に向けて更なる改善が必要である。
統計
TiOX層の最適厚さ:約2.8 nm
MoS2/グラフェン/TiOX/Tiセルの最大VOC:約0.7 V
MoS2/グラフェン/TiOX/Tiセルの最大JSC:約5.7 mA cm-2
MoS2/グラフェン/TiOXセルの最大電力変換効率:5.3%
MoS2/グラフェン/TiOXセルのフィルファクター:63.4%
引用
「超薄膜TiOX層は、Ti3+からTi4+までの酸化状態の範囲で広帯域トンネリング状態を形成するため、ホットキャリアを高VOCで抽出できる。」
「利用可能なトンネリング状態の数は、短絡電流に正比例することがわかった。」