核心概念
本稿では、摂動を受けたブラックホールの質量が、摂動後の極値質量よりも大きいかどうかを示す量「X」を導入し、思考実験を用いて弱い宇宙検閲仮説の破れを検証しました。その結果、WCCCの破れは、極値ブラックホールのエントロピーと温度の関係を示す量「W」の符号に依存することが明らかになりました。
ペンローズによって提唱された弱い宇宙検閲仮説(WCCC)は、裸の特異点が出現するような物理過程が存在しないことを示唆しており、物理法則の予言可能性を維持する上で重要な意味を持ちます。
本稿では、思考実験と、摂動を受けたブラックホールの質量が、摂動後の極値質量よりも大きいかどうかを示す量「X」を導入することで、WCCCの破れを検証する新たなアプローチを提案しました。
従来の研究における問題点
従来のWCCC検証方法には、Hubeny型、混合型、SW型の3種類が存在しました。
Hubeny型: 極値近傍ブラックホールに対して一次の摂動のみを考慮しており、高次の項が無視されるため不完全な解析となっていました。
混合型: 極値ブラックホールに対して異なる次数で展開を行うため、矛盾が生じていました。
SW型: KNブラックホールを例に、適切な次数で展開を行うことで、より正確な解析が可能となりました。
本稿のアプローチ
本稿では、SW型に基づき、Xを適切な次数まで展開することで、WCCCの破れが、極値ブラックホールのエントロピーと温度の関係を示す量「W」の符号に依存することを明らかにしました。
W > 0 の場合、WCCCは保護されます。
W < 0 の場合、極値近傍の場合にWCCCが破れる可能性があります。
Wの符号の重要性
W > 0 は、極値ブラックホールの質量が、電荷を固定した場合の局所最小値であることと等価であり、ブラックホール無毛定理と密接に関係しています。
(A)dS時空への拡張
漸近的に平坦な時空では、テスト粒子が事象の地平線に到達するためのNECは、熱力学の第二法則δS > 0 と関連していますが、漸近的に(A)dS時空では、この関連性は成立しません。
しかし、宇宙定数が存在する場合でも条件(19)が成り立つと仮定すると、W > 0 であるため、(A)dSブラックホールの場合でもWCCCの破れは起こらないことが示されました。
結論
本稿では、WCCCの破れを検証する新たなアプローチを提案し、Wの符号がWCCCの破れの可能性を示す重要な指標であることを明らかにしました。