拡散方程式は、熱伝導や粒子拡散など、様々な物理現象を記述するために広く用いられている。しかし、拡散方程式は非相対論的な方程式であるため、粒子がある時刻において光速を超えて移動する可能性を許容してしまうという問題点がある。これは、拡散方程式のプロパゲータが、任意の時刻において、粒子源からの距離が光速×時間よりも大きい位置においてもゼロでない確率密度を持つことに起因する。
この超光速拡散問題に対して、従来は、ユットナー伝播関数などを用いた現象論的なアプローチがとられてきた。ユットナー伝播関数は、相対論的な速度分布関数であるマクスウェル・ユットナー分布を基に、速度を距離、温度を拡散係数に置き換えることで導出される。しかし、このアプローチは、熱平衡状態における速度分布と粒子拡散という、本質的に異なる現象を結びつけるものであり、物理的な根拠に乏しい。
本研究では、粒子が等速で等方的に移動しながらランダムな散乱を受けるランダムフライト過程に基づき、粒子伝播の確率密度関数を半解析的に導出することで、超光速拡散問題に対するより厳密な解法を提示する。
導出した確率密度関数を用いて、様々な時刻における粒子の空間分布を計算し、従来のガウス伝播関数およびユットナー伝播関数を用いた場合と比較した。その結果、本研究で提案した解法は、数値シミュレーションの結果と非常によく一致することが確認された。一方、ガウス伝播関数は超光速拡散の問題を抱えており、ユットナー伝播関数は超光速の問題は回避できるものの、拡散過程の平均自由行程を過小評価していることが明らかになった。
パルサーハローは、パルサー風星雲から放出された電子・陽電子が星間物質中を拡散することで形成されるガンマ線天体である。パルサーハローのガンマ線プロファイルを計算するためには、電子・陽電子の空間分布を正確に求める必要がある。本研究で提案した解法を用いることで、従来よりも正確にパルサーハローの電子・陽電子分布を計算することが可能になる。
本研究では、ランダムフライト過程に基づいた厳密な解法を提示することで、拡散方程式における超光速問題に対する新たな知見を提供した。この解法は、パルサーハローのモデリングなど、宇宙線伝播を含む様々な物理現象の理解に貢献することが期待される。
他の言語に翻訳
原文コンテンツから
arxiv.org
深掘り質問