核心概念
高エネルギー重イオン衝突におけるパートンとジェットのエネルギー損失は、媒質の経路長にほぼ線形に依存することが、ハドロンとジェットの抑制の普遍的なスケーリング則を用いたデータ分析により明らかになった。
書誌情報
François Arleo and Guillaume Falmagne. "Path-length dependence of parton and jet energy loss from universal scaling laws". 42nd International Conference on High Energy Physics (ICHEP2024), 18-24 July 2024, Prague, Czech Republic. arXiv:2411.13258v1 [hep-ph]
研究目的
本研究の目的は、高エネルギー重イオン衝突で生成されるクォークグルーオンプラズマ(QGP)中におけるパートンとジェットのエネルギー損失が、媒質の経路長にどのように依存するかを明らかにすることである。
方法
本研究では、RHIC および LHC で行われた重イオン衝突実験で得られた、大横運動量を持つハドロンのスペクトル抑制(RAA)に関するデータを用いている。RAA は、重イオン衝突におけるハドロン生成量を、陽子-陽子衝突における生成量で規格化したもの であり、QGP 中におけるパートンのエネルギー損失を反映する。
まず、RAA が大横運動量領域において普遍的なスケーリング則に従うことを示し、このスケーリング則を用いて、様々な衝突エネルギーや中心度における平均パートンエネルギー損失 ⟨ε⟩ を系統的に決定した。次に、⟨ε⟩ とソフトハドロン多重度の単純な関係を用いることで、パートンエネルギー損失の媒質経路長依存性を調べた。
さらに、RAA の方位角異方性係数 𝑣2/e も RAA と同じスケーリング則に従うことをモデル計算に基づいて示した。そして、大横運動量領域における 𝑣2/e と RAA の対数微分の間に線形関係があることを示し、この関係を用いることで、データから直接的にパートンエネルギー損失の経路長依存性を調べることが可能になることを示した。
主な結果
様々な衝突系および中心度において得られた、軽ハドロン(π0, h±)および重ハドロン(J/ψ, D)の RAA から抽出したエネルギー損失スケール ⟨ε⟩ は、⟨ε⟩ ∝ 𝐿𝛽 (𝛽 = 1.02+0.09−0.06) の関係に従うことがわかった。
この結果は、縦方向に膨張する QGP におけるパートンエネルギー損失に関する pQCD の予測と一致する。
方位角異方性係数 𝑣2/e は、モデル計算および実験データの両方において、RAA と同じスケーリング則に従うことがわかった。
𝑣2/e と RAA の対数微分の間に線形関係があることが、ハドロンおよびジェットの測定データの両方において確認された。
このことから、QGP 中におけるパートンとジェットのエネルギー損失は、どちらも媒質の経路長にほぼ線形に依存することが示唆される。
結論
本研究の結果は、QGP 中におけるパートンとジェットのエネルギー損失メカニズムの理解に大きく貢献するものである。特に、エネルギー損失の経路長依存性に関する知見は、QGP の性質をより深く理解するために重要である。
意義
本研究は、高エネルギー重イオン衝突におけるパートンエネルギー損失の経路長依存性を、普遍的なスケーリング則を用いたデータ分析により明らかにした点で意義深い。
限界と今後の研究
本研究では、原子核の密度分布をハードコアと仮定した Glauber モデルを用いて幾何学的量を計算しているが、より現実的な密度分布を用いた計算を行うことで、結果の精度を向上させることができる。また、今後の LHC Run 3 & 4 実験で得られる高精度なデータを用いることで、スケーリング則をより精密に検証することができる。
統計
軽ハドロンのエネルギー損失スケール ⟨ε⟩ は、⟨ε⟩ ∝ 𝐿𝛽 (𝛽 = 1.02+0.09−0.06) の関係に従う。
ハドロンデータにおける 𝑣2/e と d ln RAA/d ln 𝑝⊥ の相関係数は 0.78 であった。
ハドロンデータから得られた 𝛽 の値は 0.94 ± 0.04 であった。
ジェットデータにおける 𝑣2/e と d ln RAA/d ln 𝑝⊥ の相関係数は 0.84 であった。
ジェットデータから得られた 𝛽 の値は 1.03 ± 0.06 であった。