核心概念
気候モデルにおける温暖化パターンの不変性は、指数関数的な強制力、線形フィードバック、一定の強制力パターン、拡散力学という条件下で生じる現象であり、これらの条件は、非線形フィードバックが重要な北極や、エアロゾルが強制力パターンを大きく変化させる地域を除き、ほとんどのCMIP6共通社会経済経路(SSP)でほぼ満たされています。
要約
書誌情報
Giani, P., Fiore, A. M., Flierl, G., Ferraria, R., & Selina, N. E. (2024). Origin and Limits of Invariant Warming Patterns in Climate Models. arXiv preprint arXiv:2411.14183v1.
研究目的
本研究は、気候モデルにおいて、地域的な温暖化と地球全体の温暖化の比率(温暖化パターン)が、世紀末の予測においてなぜほぼ一定となるのか、そのメカニズムを解明することを目的としています。
方法
本研究では、最新の気候モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)のデータを用い、異なる排出シナリオ(SSP119、SSP585)およびCO2濃度を4倍にした理想化実験(abrupt-4xCO2)における温暖化パターンの時間変化を分析しました。さらに、局所エネルギーバランスの議論に基づいた単純化されたモデルを用いて、温暖化パターンの不変性に影響を与える要因を理論的に考察しました。
主な結果
- 温暖化パターンは、陸域、熱帯海洋、南大洋など多くの地域で、世紀末の予測において時間的にほぼ一定であることが確認されました。
- しかし、北極域では、非線形な表面アルベドフィードバックの影響により、温暖化パターンは時間的に変化することが示されました。
- 理想化されたモデルを用いた解析により、温暖化パターンの不変性は、指数関数的な強制力、線形フィードバック、一定の強制力パターン、拡散力学という条件下で生じることが明らかになりました。
- CO2濃度を急激に増加させる理想化実験(abrupt-4xCO2)では、海洋熱吸収の空間的な不均一性により、非線形フィードバックがない場合でも、温暖化パターンは時間的に変化することが示されました。
結論
本研究の結果は、世紀末の予測において、多くの地域で温暖化パターンがほぼ一定となる理由を説明するものです。しかし、北極域やエアロゾルの影響が大きい地域では、温暖化パターンは時間的に変化する可能性があり、より複雑なモデルを用いた解析が必要となります。
意義
本研究は、気候変動の地域的な影響評価において、温暖化パターンの不変性を考慮することの重要性を示唆しています。
限界と今後の研究
本研究では、単純化されたモデルを用いて温暖化パターンの不変性を考察しましたが、現実の気候システムはより複雑であり、今後の研究では、より詳細なモデルを用いた解析が必要となります。また、本研究では、CO2以外の温室効果ガスの影響や、土地利用変化などの影響は考慮されておらず、これらの要因についても今後の研究で検討する必要があります。
統計
2度解像度のグリッドに再グリッド化されたCMIP6マルチモデル平均データを使用。
SSP119とSSP585は、それぞれScenarioMIPで考慮された最低排出シナリオと最高排出シナリオ。
abrupt-4xCO2実験では、CO2レベルが急激に4倍になる。
北極圏は北緯80度以上の地域として定義。
熱帯海洋は緯度±10度以内の海洋ポイントとして定義。
南大洋は南緯55度以南で、年間平均海氷面積濃度が産業革命前コントロール中に30%未満の海洋ポイントとして定義。
理想化された3地域モデルでは、陸域、低緯度海洋、高緯度海洋を想定。
理想化モデルの平衡気候感度は3.6K。
CO2倍増の放射強制力は3.7 W m^-2。
指数関数的強制の場合、R0 = 0.0573 W m^-2、𝜏0 = 50年と設定し、R(t= 250) = 8.5 W m^-2とする。
Abruptの場合、空間的に均質なR(t) = R2× = 3.7 W m^-2と設定。
Overshootの場合、ピーク強制力Rp = 4 W m^-2、ピークのタイミングtp = 200年、σ = 42年と設定。
AlbedoFeedbackの場合、北極と世界の他の地域(ROW)の2つの地域を想定。
北極とROWの固定フィードバックを-1.25 W m^-2 K^-1に設定。
表面アルベドフィードバックは-SΔα、ここでαは式(14)でインタラクティブに計算され、Sは100 W m^-2に設定。
熱容量は100mの水に対応。
AerosolForcingの場合、LateEmitter、EarlyEmitter、ROWの3つの地域を想定。
EarlyEmitterとLateEmitterの両方で、指数関数的強制パラメータR0が250年で-2.0 W m^-2に達するように設定。
EarlyEmitterの𝜏0 = 25年、LateEmitterの𝜏0 = 75年。
全ての地域でフィードバックパラメータと熱容量を同じ値(h = 100 m、λ = -0.86 W m^-2 K^-1)に設定。
EarlyEmitterとLateEmitterはそれぞれ地球の表面積の10%を占めていると想定。