核心概念
水素、重水素、ヘリウム3のエネルギー準位に対する二次超微細構造補正の理論的計算を行い、特にヘリウム3とヘリウム4の原子核電荷半径差の決定における不一致を解消する。
要約
研究論文の概要
書誌情報
Krzysztof Pachucki, Vojtěch Patkós, and Vladimir A. Yerokhin. (2024). Second-order hyperfine correction to H, D, and $^3$He energy levels. arXiv:2411.05621v1 [physics.atom-ph].
研究目的
本研究の目的は、水素、重水素、ヘリウム3のエネルギー準位に対する二次超微細構造補正を高精度で計算し、ヘリウム同位体の原子核電荷半径差の決定におけるミューオン測定と電子測定の間に見られる不一致を解消することである。
方法
非相対論的量子電磁力学(NRQED)に基づく計算手法を用い、二次超微細構造補正を系統的に評価した。具体的には、二次摂動論を用いて、電子と原子核の相互作用を考慮したハミルトニアンからエネルギーシフトを計算した。
主な結果
- 水素原子、重水素原子、ヘリウムイオン(He+)の1S-2S遷移に対する二次超微細構造補正は、それぞれ0.86 kHz、0.05 kHz、6.84 kHzと計算された。
- ヘリウム原子(He)の2$^1$S状態と2$^3$S状態に対する二次超微細構造補正を、電子相関を考慮した高精度計算により決定した。
- ヘリウム3とヘリウム4の同位体シフトに対する二次超微細構造補正の寄与を、n=2状態との混合だけでなく、n≠2状態との混合も考慮して精密に評価した。
結論
本研究で得られた二次超微細構造補正は、ヘリウム3とヘリウム4の原子核電荷半径差の決定に重要な影響を与える。特に、n≠2状態との混合を考慮することで、電子分光法から決定された電荷半径差とミューオン原子分光法から決定された電荷半径差の不一致が大きく解消されることが示された。
意義
本研究は、原子物理学における精密計算の重要性を示すとともに、原子核構造の理解を深める上で重要な貢献を果たすものである。特に、ヘリウム同位体の電荷半径差の決定における不一致の解消は、ミューオン原子分光法による原子核電荷半径決定の信頼性を高めるものであり、今後のより重い原子核への適用に期待が持たれる。
制限と今後の研究
本研究では、二次超微細構造補正として弾性散乱のみを考慮しており、非弾性散乱の寄与は評価していない。非弾性散乱の寄与は、現在の精度レベルでは無視できると考えられるが、今後のより高精度な計算が必要となる可能性がある。
統計
水素原子の1S-2S遷移に対する二次超微細構造補正は0.86 kHz。
重水素原子の1S-2S遷移に対する二次超微細構造補正は0.05 kHz。
ヘリウムイオン(He+)の1S-2S遷移に対する二次超微細構造補正は6.84 kHz。
ヘリウム原子(He)の2$^1$S状態に対する二次超微細構造補正によるエネルギーシフトは-2.075 kHz。
ヘリウム原子(He)の2$^3$S状態に対する二次超微細構造補正によるエネルギーシフトは-0.305 kHz。
電子分光法から決定されたヘリウム3とヘリウム4の原子核電荷半径差は1.0678(7) fm$^2$。
ミューオン原子分光法から決定されたヘリウム3とヘリウム4の原子核電荷半径差は1.0636(31) fm$^2$。
引用
"The complete second-order hyperfine-interaction correction is calculated for centroid energy levels of H, D, and 3He atoms."
"For 3He, the corrections of −2.075 kHz and −0.305 kHz beyond the leading hyperfine-mixing contribution are obtained for the 21S and 23S states, respectively."
"These results shift the nuclear charge radii difference derived from the 3He –4He isotope shift and largely resolve the previously reported disagreement between the muonic and electronic helium determinations."