励起電子状態とポテンシャルエネルギー曲面(PES)を記述するための正確かつ計算的に実用的な手法の開発は、量子化学において重要な課題である。励起電子状態計算には、結合クラスター(CC)理論に基づく手法が広く用いられている。その中でも、Equation-of-Motion Coupled-Cluster Singles and Doubles (EOMCCSD)法は広く用いられているが、化学結合が大きく伸縮したり切断したりする場合など、多参照的な相関効果が重要となる場合には、正確な記述が困難となる。EOMCCSDT法などの高次の手法は、より正確な記述が可能であるが、計算コストが非常に高いため、大きな分子系への適用は困難である。
本研究では、CCSDT/EOMCCSDT計算と同程度の精度を保ちつつ、計算コストを削減できる手法として、活性軌道に基づくCC(P;Q)法および適応CC(P;Q)法を開発し、水のポテンシャルカットへの応用を行った。
CC(P;Q)法は、CC計算を2つの部分空間に分割し、それぞれで計算を行う手法である。活性軌道に基づくCC(P;Q)法では、活性軌道と呼ばれる、計算対象とする電子状態に大きく関与する軌道を用いて部分空間を分割する。一方、適応CC(P;Q)法では、計算の途中で重要な三重励起配置を自動的に選択し、部分空間を分割する。本研究では、CC(P;Q)法の具体的な手法として、CC(t;3)法と適応CC(P;Q)法を用いた。
CC(t;3)法と適応CC(P;Q)法は、CCSDT/EOMCCSDT計算と同程度の精度で水のポテンシャルカットを再現できることが示された。特に、CR-EOMCC(2,3)法では記述が困難であった、大きく結合が伸長した領域におけるポテンシャルエネルギー曲面に対しても、正確な記述が可能であった。また、適応CC(P;Q)法は、CC(t;3)法と比べて、計算に用いる三重励起配置の数が少ないにもかかわらず、同程度の精度が得られることが示された。
本研究で開発した活性軌道に基づくCC(P;Q)法および適応CC(P;Q)法は、CCSDT/EOMCCSDT計算と同程度の精度を保ちつつ、計算コストを大幅に削減できる。これらの手法は、大きな分子系や、より高次の励起状態の計算への適用が期待される。
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