核心概念
本稿では、溶融塩炉などの液体燃料原子炉における遅発中性子先行核の輸送を計算するため、石油工学や地下水解析で開発された流線追跡技術を用いた新しい計算方法を提案しています。
要約
論文情報
- Mathis Caprais, André Bergeron, Nathan Greiner, Daniele Tomatis. (2024). A new calculation method using pathlines for delayed neutron precursors in liquid nuclear fuels. Nuclear Science and Engineering.
研究目的
本研究は、液体燃料原子炉における遅発中性子先行核(DNP)の輸送を計算するための新しい方法を開発することを目的としています。液体燃料では、DNPは流れによって輸送されるため、従来の原子炉計算コードでは正確に評価することが困難でした。
手法
本研究では、DNPの輸送方程式を解くために、石油工学や地下水解析で開発された特性曲線法(MOC)を適用しました。この方法では、まず、速度場に基づいて計算領域全体をカバーする流線を生成します。次に、各流線に沿ってDNPの濃度を解析的に計算します。この計算では、DNPの拡散を無視し、中性子束はステップ状に近似しています。
主な結果
- 開発されたMOCを用いた計算結果は、CNRSが提案した蓋駆動キャビティベンチマーク問題の定常状態において、他の参加者によって得られた結果と一致しました。
- 結果の精度は、シミュレートされた流線の数と、流線が描かれた場所に依存することがわかりました。
- 流線の始点はランダムに選択され、中性子束方程式が解かれるメッシュのセルに割り当てられた速度ベクトルの近似として取得されます。
- セル内の平均先行核濃度は、対応する流線上での量の適切な重み付けによって得られます。
結論
本研究で開発された方法は、流線を追跡できる滑らかな速度場(層流やRANS流れなど)を持ち、DNPの拡散が無視できる液体燃料原子炉における遅発中性子源の計算に適しています。
意義
本研究は、液体燃料原子炉の設計および安全解析において重要な役割を果たす、より正確なDNP輸送計算手法を提供するものです。
制限と今後の研究
- 本研究では、DNPの拡散を無視しています。拡散の影響を考慮することで、より高精度な計算が可能になると考えられます。
- 本研究では、定常状態のみを扱っています。過渡状態におけるDNP輸送計算への適用も重要な課題です。
統計
溶融塩のシュミット数は2×10⁸です。
溶融塩の動粘度は2.5×10⁻² m²/sです。
溶融塩の拡散係数は1.25×10⁻¹⁰ m²/sです。
キャビティの特性長さは2 mです。
特性速度は5×10⁻¹ m/sです。
DNPの平均崩壊定数は1×10⁻¹ s⁻¹です。
50×50メッシュと100×100メッシュの反応度差は4 pcmです。
100×100メッシュと200×200メッシュの反応度差は0.2 pcm未満です。
200×200メッシュと400×400メッシュの反応度差は、設定した収束閾値以下です。
引用
"The method developed in this work is suited to smooth velocity fields (e.g., laminar or RANS flows) where pathlines can be tracked, and where DNP diffusivity is negligible."