核心概念
軟X線トランジェントにおける中性子星の熱進化のシミュレーションは、従来の地殻組成モデルと最新のnHD平衡モデルの両方において、観測結果と一致させるために、浅い加熱や熱伝導率の変動といった追加要素が必要であることを示している。
論文の書誌情報: Potekhina, A.Y., Chugunova, A.I., Shchechilin, N.N., & Gusakov, M.E. (2024). Cooling of neutron stars in soft X-ray transients with realistic crust composition. Journal of High Energy Astrophysics.
研究目的: 現実的な地殻組成モデルを用いて、軟X線トランジェント(SXT)における中性子星の熱進化をシミュレーションし、従来のモデルと最新のnHD平衡モデルの両方が観測結果を説明できるかどうかを調査する。
方法:
SXT MXB 1659−29 と IGR J17480−2446 の観測データを使用。
Shchechilin et al. (2021, 2022, 2023) によって開発された、現実的な熱核灰組成とnHD平衡を考慮した新しい中性子星降着地殻モデル(SGCモデル)を採用。
中性子星の熱進化をシミュレートする数値コードを使用して、SGCモデルに基づいてSXTの加熱と冷却をシミュレート。
シミュレーション結果を、従来の地殻モデル(Fantina et al., 2018)を用いた結果と比較。
主な結果:
SGCモデルは、従来のモデルと同様に、SXTにおける中性子星の熱進化を説明できる。
どちらのモデルも、観測結果と一致させるためには、浅い加熱や熱伝導率の変動といった追加要素を必要とする。
MXB 1659−29 の冷却曲線は、SGCモデルの中でも特にSBモデルでよく再現された。
IGR J17480−2446 の冷却速度は、外殻と内殻の遷移領域付近に熱伝導率の低い層を導入することで説明できる。
結論:
nHD平衡を考慮した現実的な地殻組成モデルは、SXTにおける中性子星の熱進化を説明する上で重要な役割を果たす。
浅い加熱や熱伝導率の変動など、中性子星の冷却に影響を与える可能性のある他の要因を考慮する必要がある。
この研究の意義:
中性子星の地殻における熱輸送と冷却メカニズムの理解を深める。
中性子星の内部構造と状態方程式に関する制約を提供する。
制限事項と今後の研究:
浅い加熱のメカニズムと熱伝導率の変動の原因を解明する必要がある。
より多くのSXTの観測データを使用して、モデルの精度を向上させる必要がある。
統計
論文では、軟X線トランジェントMXB 1659−29の3回のアウトバースト(1976-1979年、1999-2001年、2015-2017年)の観測データを使用している。
アウトバーストIの際の降着率は4 × 10^-9太陽質量/年と推定されている。
アウトバーストIIの際の平均降着率は、アウトバーストIの際の約1/3から1/2と推定されている。
IGR J17480−2446の2010年のアウトバーストは、約11週間続いたと推定されている。
IGR J17480−2446の中性子星の自転周期は約90ミリ秒と非常に遅い。