核心概念
矮小銀河NGC 1569にある大質量星団NGC1569-Bで観測された異常に高い[Ba/Fe]比は、コラプサーからのr過程元素の放出によって説明できる可能性がある。
要約
論文概要
本論文は、矮小銀河NGC 1569にある大質量星団NGC1569-Bで観測された異常に高いバリウム-鉄比([Ba/Fe])の起源について、数値シミュレーションを用いて検証した研究論文である。
背景
- 近年の観測により、銀河系内の球状星団では、軽元素、s過程元素、r過程元素の内部存在量にばらつきがあることが明らかになっている。
- 特に、r過程元素のばらつきは、中性子星合体(NSM)などの激しい天体現象によって引き起こされた可能性が指摘されている。
- Gvozdenko et al. (2022)は、NGC1569-Bの[Ba/Fe]比が1.28±0.21と異常に高いことを発見した。これは従来の理論では説明が難しく、新たな元素合成源の必要性が示唆されている。
研究内容
- 本研究では、NGC1569-Bの高い[Ba/Fe]比を説明するために、(1)コラプサー、(2)中性子星合体(NSM)、(3)磁気回転超新星(MR-SNe)の3つのr過程元素の供給源を検討した。
- まず、解析的な計算により、観測された[Ba/Fe]比を達成するために必要な各供給源のイベント数を推定した。
- その結果、コラプサーが最も効率的にバリウムを供給できることが明らかになった。
- 次に、コラプサーによる化学進化を考慮した、ガス豊富な矮小銀河の合体の化学動力学シミュレーションを実施した。
- シミュレーションでは、星形成率、初期金属量、コラプサーの発生率などのパラメータを変化させ、NGC1569-Bの観測結果を再現できるかどうかを調べた。
結果
- 初期金属量[Fe/H]=-1.5、コラプサー発生率(CCSN/COL)70という条件下で、NGC1569-Bの観測された[Ba/Fe]比(1.3±0.2)と[Fe/H]比(-0.7±0.2)を再現する星団が形成されることがわかった。
- また、シミュレーション結果に基づき、NGC1569-Bのユウロピウム存在量([Eu/Fe]=1.9±0.2)を予測した。
- これらの結果は、合体軌道の変化に対して頑健であることが確認された。
結論
- 本研究の結果は、コラプサーが矮小銀河におけるr過程元素の主要な供給源となり得ることを示唆している。
- 特に、NGC1569-Bで観測されたような異常に高い[Ba/Fe]比は、コラプサーによる化学進化によって自然に説明できる可能性がある。
今後の展望
- 本研究では、簡略化されたモデルを用いているため、より現実的な銀河進化モデルを用いたシミュレーションが必要である。
- また、観測データの蓄積により、シミュレーション結果の検証を進める必要がある。
統計
NGC1569-Bの[Ba/Fe]比は1.28±0.21である。
NGC1569-Bの[Fe/H]比は-0.74±0.05である。
NGC1569の古い星の[Fe/H]比は-2 から -1 の範囲に分布しており、ピークは-1.25付近である。
NGC1569の星形成率は0.48 M⊙yr−1である。
NGC1569-Bの質量は6.1 × 10^5 M⊙である。
引用
"The super star cluster NGC1569-B has recently been observed to have an extremely high [Ba/Fe]."
"The [Ba/Fe] reported in G22 is seemingly independent of their changing the ratio of red to blue supergiants."
"This Ba abundance is much higher than anything measured previously and requires further study to try and recreate a star cluster with [Ba/Fe] so super solar."