核心概念
脂肪やコラーゲンの沈着によって生じる肝臓の微細構造変化を、肝臓組織の巨視的な粘弾性特性に結び付ける計算マイクロメカニクスモデリングアプローチを開発しました。
要約
肝臓の組織学的変化と粘弾性の関連性を解析するマイクロメカニクスモデル
本論文は、肝臓の脂肪やコラーゲンの沈着による微細構造の変化が、肝臓組織の巨視的な粘弾性特性にどのように影響するかを調べることを目的とした研究論文である。
背景と目的
- エラストグラフィーは、組織の弾性率を測定し、肝線維症などの様々な疾患のバイオマーカーとして用いられている非侵襲的な画像診断法である。
- 疾患による微細構造の変化が、巨視的な組織弾性に影響を与えるという前提に基づいている。
- 近年、弾性に加えて、組織の粘性がバイオマーカーとして注目されており、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)や代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)などの診断機会が開かれている。
- 本論文では、特に肝臓における微細構造の変化と力学的特性を関連付けることを目的とする。
- 提案されたフレームワークは他の疾患にも適用できる可能性があるが、MASLD、MASH、線維症に焦点を当てて開発を進めている。
- また、今回の検討は、線形領域における小振幅振動を用いた波動ベースのエラストグラフィーを動機としている。
方法
- 肝臓組織を、完全に周期的な肝小葉の集合体として扱い、計算ホモジナイゼーションを適用して、脂肪やコラーゲンの沈着パターンに応じた粘弾性率を推定する。
- 組織学的観察に基づいたアドホックな微細構造生成アルゴリズムを開発し、合成微細構造プロファイルを作成する。
- これらの2つのステップを組み合わせることで、脂肪含有量やコラーゲン占有面積(CPA)の関数として粘弾性率の予備的な結果を示す。
結果と考察
脂肪性変化の影響
- 脂肪含有量の増加に伴い、貯蔵弾性率は低下する。これは、脂肪滴の流動性によるものと考えられる。
- 脂肪含有量の増加に伴い、損失弾性率も低下する。これは、脂肪組織の損失弾性率が、健康な組織の損失弾性率よりも低いためである。
- 脂肪沈着のパターンよりも、全体的な脂肪含有量の方が、貯蔵弾性率と損失弾性率に与える影響が大きい。
線維化の影響
- CPAの増加に伴い、貯蔵(せん断、G')弾性率は増加し、緩和時間は減少する。
- CPAが10%以下の初期線維症では、CPAの関数としての貯蔵弾性率のばらつきは大きくなく、MASLDやMASHにおいてCPAと力学的特性との間に予測可能な関係がある可能性を示唆している。
- CPAが10%を超えると、特にパターン2とコラーゲン弾性率が高い場合に、硬化の加速的な増加が見られる。これは、コラーゲン沈着アルゴリズムによって、CPAが10%を超えるとパターンに構造が導入されるためである。
脂肪性変化と線維化の複合的な影響
- 100Hzでは、貯蔵弾性率のみが脂肪含有量またはCPAに敏感であるため、CPAと脂肪含有量の両方を独立して推測することはできない。
- 一方、300Hzでの測定値を用いると、CPAと脂肪含有量の両方を推測することができる。
結論
- 肝臓の微細構造の変化を力学的特性の変化に結びつけるモデルを構築するための第一歩として、脂肪やコラーゲンの沈着の影響を捉える計算モデリングフレームワークを開発した。
- このモデルは、肝臓の繰り返し長方形単位セルの粘弾性変形をシミュレートして、異なる周波数における巨視的な貯蔵弾性率と損失弾性率を予測する計算ホモジナイゼーションアプローチに基づいている。
- コラーゲンは明示的に含まれているが、脂肪沈着のモデリングには、複合材料理論に基づくより小規模な解析モデルが利用されている。
- アドホックな沈着パターンを用いて、肝小葉内のコラーゲンと脂肪含有量の分布を視覚的に模倣している。
- このようなパターンを用いることで、比較的粗い有限要素メッシュでも有効な弾性率を得ることができ、微細構造の影響を調べるために複数のシミュレーションを行う場合でも、このアプローチが実用的であることを示唆している。
- このフレームワークを用いて、脂肪性変化、線維化、脂肪性変化と線維化の複合的な影響を調べた。
- これらの予備的な結果の分析から、脂肪性変化による力学的変化は総脂肪含有量に依存し、コラーゲンによる硬化は全体的な含有量(CPA)だけでなく、沈着パターンにも依存することが示唆された。
- もう一つの興味深い観察結果は、周波数が、CPAと脂肪含有量の粘弾性率に対する相対的な感度に役割を果たす可能性があるということである。
今後の展望
- 肝臓組織の検証されたレオロジーモデルや肝臓におけるコラーゲンの弾性率を慎重に組み込んだ上で、これらのモデルを再検討する必要がある。
- 肝臓組織の粘弾性測定値からCPAと脂肪含有量を推定する上で、周波数が重要な役割を果たす可能性がある。理想的には、超音波SWEで行われているように、また、一部のMREでは可能であるように、複数の周波数で測定することが望ましい。
統計
肝小葉の直径は、組織学的観察に基づき、直径1mmと仮定した。
脂肪の粘度は体温で0.4 Pa.s、100 Hzでの複素弾性率はG = 0.25i kPaとした。
健康な肝臓組織のせん断弾性率は2 kPa、粘度は5 Pa.s、100 Hzでの複素弾性率は(2+0.5i) kPaとした。
コラーゲンのせん断弾性率は、文献から特定された60~300 kPaの範囲で、60 kPa刻みで検討した。