本稿は、走査透過電子顕微鏡(STEM)に新しい機能を追加し、原子レベルでの物質の合成と観察を可能にするサイドエントリーレーザーシステムの設計と実装について記述した研究論文である。
本研究の目的は、従来のSTEMの分析機能を超えて、原子レベルの構造を持つ量子デバイスの構築といった、より高度なナノスケール加工の実現に向けた、原子レベルでの物質の合成と観察を可能にするサイドエントリーレーザーシステムを開発することである。
本研究では、既存のSTEM装置に最小限の改造で組み込むことができるサイドエントリーレーザーシステムを設計した。このシステムは、大気圧下に置かれたレーザー光源と、光ファイバーで接続された光プローブシャフト、そして試料ホルダーに取り付けられたミラーで構成されている。レーザービームは、光プローブシャフトから真空チャンバー内のミラーに導かれ、反射して試料に照射される。これにより、試料を傾斜させることなく、レーザー照射と電子ビームによる観察を同時に行うことが可能となる。
本システムの重要な課題の一つは、試料ステージの移動に伴ってミラーの位置も変化するため、レーザーと電子ビームの位置合わせが複雑になることである。この課題を克服するために、本研究では、試料に蛍光体粒子を散布し、レーザー光学系を用いて蛍光体粒子からの発光を観察することで、レーザーと電子ビームの位置合わせを行う手法を開発した。
本研究では、開発したサイドエントリーレーザーシステムを用いて、グラフェン試料のクリーニングとPdSe2フレークの相変化誘起の実証実験を行った。その結果、レーザー照射によってグラフェン表面の汚染物質が除去され、PdSe2フレークに相変化が生じることが確認された。これは、本システムが材料の加熱に有効であることを示している。
さらに、レーザーアブレーションによる物質堆積の実証実験として、Sn箔をターゲットとしてレーザーアブレーションを行い、グラフェン試料上にSnナノ粒子を堆積させることに成功した。
本研究では、試料を傾斜させることなくレーザー照射と原子分解能イメージングを同時に行うことができる、STEMへのサイドエントリーレーザーシステムの実装と、それに伴うアラインメントの課題と解決策について述べた。このシステムは、原子レベルでの材料合成や加工を可能にすることを目的としており、将来的には電子ビームによる原子操作と組み合わせることで、原子レベルの構造を持つ量子デバイスの構築といった、より高度なナノスケール加工への道を拓く可能性を秘めている。
本研究で開発されたサイドエントリーレーザーシステムは、STEMを用いた原子レベルでの材料合成や加工技術の進歩に大きく貢献するものである。本システムにより、従来のSTEMの分析機能を超えて、材料の合成過程を原子レベルで観察しながら制御することが可能となり、新規材料の開発やデバイスの創製に革新をもたらす可能性がある。
本研究では、レーザーアブレーションによる物質堆積の実証実験を行ったが、現段階では堆積するナノ粒子のサイズや位置を精密に制御することはできていない。今後の研究では、レーザー照射条件やターゲットの形状などを最適化することで、より精密な物質堆積制御技術の確立を目指す必要がある。
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