本論文は、銅酸化物高温超伝導体(HTSC)の分光関数に現れる普遍的な異常、「ウォーターフォール」と「高エネルギーキンク」について、角度分解光電子分光法(ARPES)測定と動的平均場理論(C-DMFT)計算を用いた研究を報告しています。
銅酸化物HTSCの物理特性を理解することは、物性物理学における最も複雑な課題の一つです。HTSCの電子構造を詳細に調べる上で、ARPESは非常に有効な手法です。銅酸化物ファミリーのARPESスペクトルには、「ウォーターフォール」と「高エネルギーキンク」と呼ばれる二つの普遍的な異常が見られます。これらの異常は、ホール、電子、アンドープのいずれの銅酸化物、さらにはニッケル酸化物でも観測されており、HTSCの理解に不可欠です。
本研究では、アンドープおよびホールドープしたNa_xCa_{2−x}CuO_2Cl_2 (Na-CCOC)の分光関数を、C-DMFT計算とARPES測定を用いて調べました。Na-CCOCは、ドーピングによる構造相転移がなく、アンドープとホールドープの両方の試料を合成できるため、HTSCのモデル物質として適しています。
C-DMFT計算の結果、アンドープ試料(n_h = 0)に現れる異常は、少なくともn_h = 0.10までのドープ試料で観測される異常の前駆体であることが明らかになりました。計算結果は、実験結果と定量的に一致しており、クラスターの長さスケールでのスピンポーラロン物理を自然に含んでいます。さらに、簡略化した有効モデルを用いた解析により、キンクがスピンポーラロンに由来することが明確に示されました。
本研究の結果、「ウォーターフォール」特性は、局所相関が支配的な領域とスピン揺らぎが支配的な領域との間のクロスオーバーとして理解できることが示唆されました。電子-マグノン結合は電子の運動量に強く依存し、局所相関領域では打ち消し合います。キンクのエネルギーはスピンポーラロンのバンド幅に関係しており、アンドープとドープの両方の場合において正確に説明できます。超伝導が現れるドーピングレベルにおいてもスピンポーラロン描像が有効であることは、超伝導状態におけるこれらの準粒子の詳細な研究の必要性を示唆しています。
他の言語に翻訳
原文コンテンツから
arxiv.org
深掘り質問