核心概念
陽子ターゲットにおける小x進化と飽和に対する有限サイズ効果は無視できないが、原子核ターゲットでは現在の加速器実験でアクセス可能なエネルギー領域においてその効果は小さい。
要約
この論文は、高エネルギー散乱におけるハドロンや原子核の構造を記述する、色ガラス凝縮体(CGC)有効場理論の枠組みにおける、有限サイズ効果の重要性を評価するものである。
研究目的
本研究では、陽子と原子核標的における小x進化と飽和に対する有限サイズ効果の影響を、衝突パラメータに依存したBalitsky-Kovchegov(BK)方程式を用いて調べることを目的とする。
方法
- 衝突パラメータに依存した初期条件を持つBK方程式を数値的に解く。
- 様々な設定(衝突パラメータ依存性の有無、結合定数の走り方の違い、高次補正の組み込み方、赤外レギュレーターの違い)で計算を行い、結果を比較する。
- 得られた双極子振幅を用いて、J/ψ中間子の光生成断面積を計算し、実験データとの比較を行う。
結果
- 陽子ターゲットの場合、進化における衝突パラメータ依存性を無視すると、飽和効果が過大評価される可能性がある。
- 一方、鉛原子核ターゲットの場合、現在の加速器実験でアクセス可能なエネルギー領域においては、衝突パラメータ依存性の有無は結果に大きな影響を与えない。
- 陽子ターゲットの実験データに合うように非摂動的なパラメータを調整した場合、鉛原子核ターゲットに対する予測は、用いる結合定数の走り方、BK方程式における大きな横方向対数の組み込み方、進化における赤外レギュレーターに大きく依存しない。
結論
- 陽子ターゲットにおける小x進化と飽和を記述する際には、有限サイズ効果を考慮することが重要である。
- 原子核ターゲットの場合、現在のエネルギー領域では有限サイズ効果は小さく、結合定数の走り方や高次補正の効果は限定的である。
- 過去のCGC計算で観測された、陽子と鉛原子核のデータを同時に記述することの難しさは、有限サイズ効果や高次補正に起因するものではない可能性が高い。
意義
本研究は、高エネルギー散乱におけるCGC有効場理論の適用範囲と限界を理解する上で重要な知見を提供する。特に、陽子ターゲットにおける有限サイズ効果の重要性を示したことは、今後のCGC計算における重要な指針となる。
今後の研究
- より高いエネルギー領域における有限サイズ効果の影響を調べる必要がある。
- BK方程式を超えた、より高次の進化方程式を用いた計算を行うことで、高次補正の効果をより精密に評価する必要がある。
- 実験データとのより詳細な比較を通して、CGC有効場理論の妥当性を検証していく必要がある。
統計
陽子のサイズパラメータ:Bp = 3 GeV^-2
赤外カットオフ:m = 0.4 GeV
色電荷密度の規格化定数:κ = 0.66
QCDスケールパラメータ:ΛQCD = 0.025 GeV (Balitsky処方ではΛQCD = 0.1 GeV)
引用
"Neglecting the dependence on the impact parameter can result in overestimated saturation effects for protons, while it has little effect for heavy nuclei at the energies available at current experiments."
"When fixing the nonperturbative parameters to the energy dependence of the exclusive J/ψ photoproduction cross section with proton targets, predictions for lead targets are not sensitive to the applied running-coupling prescription, the scheme chosen to resum large transverse logarithms in the BK equation, or the infrared regulator in the evolution."